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〈11〉かっこよく登場する主人公
「八代先輩!こんなところでどういうつもりなんですか!?永田氏が照れ……いや、恥ずかしがってるから離してあげてください!」
「そこは『嫌がっている』が正解でござる、雨宮氏」
「もし周りに人がいなかったら押し倒しても何も言いませんけど!」
「いや、助けろよ」
「とにかく今は離してあげてください!」
突然の雨宮氏の登場に驚いたせいか、八代の手の力が緩んだので拙者自ら手を振りほどいた。
そしてすっげー頼りないが、雨宮氏の背後へサッと隠れた。
「ところできみは?」
「2年A組の雨宮卯月です!趣味は……」
「拙者の彼氏でござる!」
「え?」
「いやいや永田氏、最後まで言わせ……って永田氏ぃぃ!?それはちが」
「こやつは拙者の彼氏でござるゥゥ!!」
こんな素晴らしいタイミングで助けに来る奴なんて、彼氏以外ありえないだろ!!
南條先生の報復がかなり恐いが、今は八代をどうにかするのが先決でござる!!
「永田君、彼氏がいたの……?」
「そ、そうだ。拙者たちは部活も一緒で体育の時間もいつも一緒でそれからそれから」
そもそもカップルというのは、何を以てカップルと主張しているのだ……!?
異性とも同性とも付き合ったことなんてないからさっぱり分からんでござる!!
「でも、雨宮君だっけ?きみさっき俺が永田君を押し倒しても何も言わないって言ったよね」
「そ、それから助けにくるパターンだから!!雨宮氏はこう見えてドSなんでござる!!その上NTR属性でござる!!」
「永田氏、その設定ちょっと無理すぎない?」
「いーから、拙者を助ける気があるならしばらく黙っとけ!!」
「はーい」
「設定……」
う……ウソだとバレている気がする……。
雨宮氏のアホォ!!勉強のできるドアホォォォ!!
「――それでも俺は君が好きだよ、永田君。彼氏がいても諦めたくない」
「ど……っどうして拙者にはそれが言えて、千歳には言えなかったでござるか!?」
我ながら痛いところを突いてやったと思った。
拙者の言葉に、八代はサッと顔を曇らせた。
「それは……」
そのまま俯いて、今にも泣きそうな顔になった。
《ズキッ》
あ……あれ?
奴の痛いところを突いてやったはずなのに、なんでか拙者の胸まで痛くなったような……気のせいでござろうか?
「……そうだね、永田君の言う通りだ。どうして俺は、同じことをシンジには言えなかったんだろうね……本当、情けないよね」
「……」
「往来で、恥をかかせてごめんね」
そう言って八代はクルッと踵を返し、反対方向へスタスタと歩き出した。
「あ……!」
そのまま、一度も振り返らずに行ってしまった。
拙者には追いかける選択肢も引き留める選択肢も無いから、ただ八代の後ろ姿をぼうっと見つめていた。
足が動かなくなったとか、絶対そういうワケじゃねーでござる……。
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