75 / 99

〈14〉素直になれなくて

「ほら、永田氏!」 「え、あっ」  雨宮氏の声につられて俯いていた顔をあげると、雨宮氏の横には目を大きく見開いて俺を見つめている八代が居た。 「え……永田くん?」 「あ、あの、えっと……」  そういえば拙者、誰かに真剣に謝ったことなんて今まで一度もないでござる!! ありがとうは言えるけど、ごめんなさいと言うのはかなりハードルが高いでござるよ!! 「おい、あれ……」 「うわ、あいつら付き合ってるってマジだったのかよー……」  うるせぇな外野!!  一体なんでござるか、さっきから人の顔を見てヒソヒソと……!  突然、八代は拙者の手首をひっ掴むと、教室を飛び出してそのままずんずんと廊下を直進した。 足が縺れそうになりながらもついていく拙者と、その後ろから置き去りにされないように小走りで着いてくる雨宮氏。 そして、歩きながら八代が言った。 「せっかく来てくれたのに悪いんだけど、場所を変えてもいい?教室は目立つから」 「う、おお……」  うう~八代め、相変わらず力が強いでござる、このスポーツ筋肉爽やか野郎。  つーか拙者の返事を聞く前から勝手に移動してるし。  わざわざ自分から会いに来たのを少し後悔してきたでござる。 それかさっさと謝って逃げればいいものの、うまく声が出せなかった……ハア。 「ごめんね、わざわざ移動させちゃって」 「別にいいでござる……あの、」 「実は、先日君に告白したとき動画を取られてたみたいで」 「え!?」  あ、そういえばあの時、周囲に何人かいたでござるな。写メってたり動画撮ったりしてた奴らが……ま、まさか既にネット上に拡散されてるんじゃないでござろうな!?  でもそしたらあの腐女子3人組、特にツイ廃気味の深町氏から何か言ってくるハズでござる!! 「あ、SNSとかで拡散されたりはしてないから安心してね。でも3年の間ではちょっとした噂になってて……永田君に迷惑かけるといけないと思って、それで最近会いに行けてなかったんだ」 「そ、そーでござるか……って、別に会いに来なくてもいいでござる!!」  なぁーんで拙者が八代が来るのを楽しみにしてるみたいな言い方をするでござるか!! そんなことは断じてありえないし、だいいちその前から普通に迷惑を被ってるというのに! 「ふふ。でも君の方から会いに来てくれるなんて思わなかったよ。ありがとう永田くん。嬉しいなあ」 「せっ、拙者はただ、謝りたいと思って……」 「謝りたい?何を?」  あ、あれ?  もしかしてなんとも思われてなかったパターンでござるか……? 「この間はひどいことを言ってしまったから……その、千歳シンジとのこと……」 「ああ~。そんなの事実だから謝る必要なんかないのに」  そう言って、八代はニコッと爽やかに笑った。 「~~ッ」  だから、その空気清浄器みたいな笑顔をこっちに向けるなでござる!! 拙者はクラスのメス豚たちとは違って、その顔には癒されないでござるからな!! 「永田くんって、本当に優しいんだね」 「は?」 「だって俺のこと気にしてくれてたんだろ?優しいよ。……少し期待しちゃうな、もしかして少し脈があるんじゃないかって」  や、やっぱり盛大に勘違いされてる……!!  来なきゃ良かったでござる!!  否、今ならまだ否定すれば間に合うハズ!! 「そ、それとこれとは別でござる!!脈なんて全く無いから勘違いすんな!!」  しかし脈が無いとか言ったら拙者、なんだか死体みたいでござるな……いや、今は雨宮氏のようにボケてる場合じゃござらん!きっぱりと断らなければ……!!  拙者は続けてまくし立てた。 「と、とにかくお前が気にしてないならそれでいいでござる!無神経な発言をしてすまなかった……拙者の用事は本当にそれだけで!付き合うとかそういうことは全く考えてないし!大体よく知りもしない相手と付き合う気にはならんし、よって拙者は貴様とは」 「よく知ってたらいいの?」 「あん?」  八代は、人畜無害そうな面でニッコリと笑って言った。 「じゃあ今週の日曜日、デートしようよ」 「……はいぃ?」  貴様、人の話聞いてたでござるか? 「だって付き合えない理由、俺のことをよく知らないからなんだよね?言われてみれば確かにそうだなって。今まで女の子は俺の顔を見て付き合ってくれって言ってきたけど……俺も彼女たちと同じだったんだね」 話を聞かない相手からのデートの誘いを上手に断る方法ってあるんだろうか。  つーかこいつ、サラッと自分はモテる発言してんな。 「じゃあ、日曜日の11時くらいでいいかな。駅前で待ってるから」 「えっ!?」 「絶対に永田くんを楽しませてみせるから、期待してて?えっと……じゃあ、教室の方にはしばらく会いに行けないけど」 「こっ、来なくていい!てか、デート!?日曜日!?駅前!?」 「あっ部活遅れる!ごめんね、バイバイ!」 「あ、ちょっ八代!!……」  ちょっと待てぇぇ!!!!  いつの間にそんな約束、誰と誰がしたでござるか!?!?  拙者があの爽やかイケメン野郎と…… 「デートォォォ!?」 「……永田氏ってけっこう流されやすいタイプなんだねぇ、まあ、俺も同じだけどさ」 「……」  見てたなら止めろでござる!!  って、雨宮氏にそんな期待はするだけ無駄でござった…。  あああああ!!  やっぱりノコノコ会いに来るんじゃなかったァァァ!!

ともだちにシェアしよう!