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〈16〉決して自慢じゃないけども

 八代が連れて行ってくれたのは、小洒落たレストランだった。  すごく見つけにくそうな、いわゆる隠れ家的な感じの……。 なんで部活で忙しい普通の高校生がこんな場所知ってんだ。リア充ってすげぇな。 「ここ、シンジのオススメの店なんだ。雑誌のインタビューで答えててさ」 「ああ、なるほど……」  現役モデルからの情報なら、納得できる。 拙者や雨宮氏がこういう場所に疎いだけなのかもしんねーでござるが。  雨宮氏、やっぱり南條先生と外ではデートしにくいって少し寂しそうでござるもんな。  家でイチャコラしまくりの方が不健全な気がするけど、きっとあの腹黒教師の方はしてやったりなんだろうな……こわっ。 「永田くんは兄弟とかいるの?」 「いや……1人っ子だ」 「そっか。俺は姉が二人いるよ」 「ああ、だから女に弱いんでござるな。雨宮氏も姉が3人の末っ子長男だから女に弱い……ってわけでもねーが、いるのはほとんど女友達でござるよ」 「そうなんだ、仲良しなんだね、雨宮くんと。こないだも一緒に三年の教室来てたし」 「まあ、拙者は雨宮氏の唯一の男友達だしな」 「付き合ってるわけじゃないんだね?」 ハッ!!  そういや月曜にそんなことを口走ったな……忘れてたでござるぅぅぅ!!  でもてっきり信じてないと思っていたのだが、まさか有効だったのか!?  そしたら拙者は彼氏がいるのに他の男とデートしてるというクソビッチなわけだが!!  うえぇ、コイツと付き合う気はねーがクソビッチと思われるのは童貞のプライド(?)が許さないでござるぅぅ!! 「あ、ごめんね。雨宮くんと付き合ってるってのは本気にはしてなかったんだけど、一応確認だけしときたくて」 「そ、そうでござるか……」 ホッ  ……ん!?いやいやいや、何安心してるでござるか!?  別にビッチだろうがヤリチンだろうがコイツに勘違いされても痛くも痒くもないのに!!  てかさっきから拙者、普通に話してるし!仲良くなんてなりたくねーのに!!  あああぁもう、チキンステーキ定食はよ来いでござるぅぅ―――!! * 「ウマッ!!」 「ほんと?良かった~」  拙者が心で叫んだあとに、チキンステーキはすぐに来てくれた。 これがもう、めちゃくちゃ美味しい。店の名刺カードを持って帰るぞ!!  次は雨宮氏と来ようか……あ、隠れ家的な場所だし、南條先生とのデートに勧めてみるか。拙者、ほんとにいい奴でござるな(自画自賛) 「本当だね、美味しい。実は俺もここに来るのは初めてなんだ」 「千歳とは行ってないでござるか?」 「うん」  ハッ!  せ、拙者はまた他人の傷を抉るようなことを……!! 「あ、ごめんね。別に平気だから」 「ひ、一口いるか!?チキンステーキ」 「え?」  食べ物で誤魔化されるとは思ってないが、食べてるものが違うしな! 拙者はポカンと口を開けてる八代の口に、一番小さく切ってあるチキンステーキをそのままフォークで無理矢理突っ込んだ。 「ムグッ!」 「う、うまいでござろう?」 「……うん、美味しい。ありがとう永田くん」  よし、誤魔化されたでござる!!  にしても、八代も拙者に負けじと結構流されやすいタイプだな。こんなので…… 「お礼に俺のハンバーグも一口あげるね。はい、永田くんアーンして?」 「は!?べ、別に自分が食べたいからあげたわけじゃねーでござるけど!?」 「それでもいいんだ。はい、アーン」 「あ……」  !?!?  ちょっ……  ちょっと……待っ…… 「さっき君が俺にしてくれたのと同じだよ?」  そうでござるけど!!  そうでござるけどぉぉ!!  拙者、無意識に何やらかしてるでござるかぁぁぁ―――!?  八代はなかなか口を開けない拙者に少しイラついたのか(見た目には分からんでござるが)フォークの先に刺したハンバーグひと切れを、拙者の唇にムニュッと押し当てた。 「……っ」 「ほら。口、開けて?」  周りのテーブルから好奇の視線を感じる。  八代はきっと拙者が食べるまで、このフォークを降ろさないだろう。  となると、拙者が食べるまでは注目を浴び続けるということで……  ええい、変に意識するなでござる!! 《バクッ!》  拙者は大口を開けると、押し付けられたハンバーグを勢いよく食べた。 《モグモグ……》 「うーまっ!!」 「ね、こっちも美味しいでしょう」 「うまい……けど!もういらないぞ……」  くそっ!くそっ!最初にこっちがやってしまったから強く言えないでござる!  アーンとかこんなリア充みたいなこと、この拙者が……  ああああ、ありえねーでござるゥゥ!!  やっちゃったけども!!  やっちゃったけどもぉぉ!!! 「永田くんって、口ちっさくて可愛いよね」 「は!?か、可愛いとかないし」  今度は何を言い出すでござるかこの野郎!!どうせ拙者は顔のパーツ全部ちーせーよ!! 幸薄顔だよ!!メガネしてるから分かんねーだろーけどな!! 「そうかな、可愛いよ?」 「男に可愛いとか言うな。まあ、カッコイイとも言われねーでござるが」 「性格はカッコイイよ、俺憧れてるから」 「顔も性格も悪い自信があるでござるが!?」 「そんなことないよ」 「顔も性格も良い奴から言われても、全然説得力が無いでござる!」 「それこそ買いかぶりだと思うなぁ。でも、ありがとう」  褒め殺しなんて、胡散臭い奴でござるな。  拙者のどこ見て可愛いとかぬかすのか。  自慢じゃないが、拙者はこの特注のメガネ以外はなかなか覚えられない超モブ顔だからな!! 同じく平凡顔の雨宮氏なんて目じゃないくらいに!!  ……本当に全然自慢じゃなかったでござる。

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