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〈17〉無意識ってこわい
その後も他愛ない会話を交わしながら食べ続けた。
料理はめちゃくちゃうまかったけど、ここ絶対高いだろうな……まあ、思いも寄らぬ臨時収入があったから懐はまあまあ温かいが。
元嫁を売った金……くうッ!
「あ、お会計は一緒でお願いします」
「!?」
レジのところで、八代はスッと拙者を押しのけるとそう言った。
お、奢らされる……ッ!?
拙者の懐が温かいのがバレてるのか!?
でもこの場合はワリカンでござろう!?
「俺が誘ったんだし、奢るよ」
「へ?……お、オゴリ?」
「うん。年上だし」
拙者がポカンとしている内に、八代はさっさと2人分の食事代を払っていた。
す、す、スマートッ……!!
恐ろしいほどにスマート!!
「いやいやいやいや、歳上と言えど同じ高校生でござるし、自分の分は自分で出すでござる」
「デートなんだし俺にカッコつけさせて?」
「拙者は女じゃねーから、そんなことでカッコつけられても別にどうとも思わんでござる!勘違いするな!」
いや、それは少し嘘でござるが。
奢りはラッキーだとは思うが、あまりこいつに借りを作りたくないんでござる!
でないと……
「じゃあ今日は俺が奢るから、次は永田くんが奢ってくれる?」
「うっ!」
「そういうことで」
ほらぁぁぁぁ!!!こうなるからぁぁぁ!!
って拙者、分かってるなら断ればいいのに。
でも、なんか……
なんていうか……
この八代という男、拙者のことが好きだというゲテモノ趣味以外に、堂々と嫌えるところがあんまり無いのだ……無茶苦茶強引だけどな。
ああー困った!!
非常に困ったでござるぅ!!
「永田くん、行こう?」
《ギュッ》
「はわっ!?ナチュラルに手を繋ぐな!!」
「次はショッピングしようよ」
「やっぱり人の話聞かねぇな!」
*
街中のとあるビルの前で、強引に引っ張られていた拙者の足がピタッと止まった。
八代は、拙者がこの世に誕生してからいまだかつて一度も足を踏み入れたことのないオシャレ上級者御用達のファッションビルに入ろうとしているのだ……。
「永田くんどうしたの?」
「せ、せ、拙者が入れるファッションビルはウニクロ、もしくはグーまででござる」
「あはは、グーってGUのこと?大丈夫だよ。同じような安めのショップも入ってるから。今から行くとこは値段もそんなに高くないし、それに今日は見るだけだし」
「いやいやいやいや」
別に値段は関係ねーでござる!!
つーか買わないなら見る必要ねーだろ!!
拙者、服は母親が買い与えたものかネットショッピングのみでござる!!
オシャレショップで買うなんてそんな、そんな恐ろしい真似……!!
「永田くん腰周りかなり細いし、絶対色々似合うと思うよ~」
「似合わなくて結構でござる!ていうかファッション興味ねえしこんなリア充の巣窟みたいな場所に入ったら拙者は死ねる自信がある」
「あ、ここに立ってたら通行人の邪魔だから中に入ろう!」
「!?」
ギャアアアアアア!!!
そんな拙者の心の叫びも虚しく……つーかまだ手握られたままだし、この爽やかイケメン野郎には力では勝てないから結局拙者は付いていくハメになった……どチクショウ!!
*
中には予想通りカップルやら洒落た服装のリア充がワラワラいるでござる……ンア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙しんどい!!!心がささくれる!!!
《ギュッ……》
拙者、心細くて(?)つい無意識に八代の腕まで握ってしまったでござる。
もちろん、無意識な。意識してたらこんなことしねーわ!!!
「な、永田くん?」
まあ、拙者が自分の行動に気付くまでにまた数分のタイムラグが発生するのだが。
さっきのアーン事件の時のように。
「えっとここ、俺がよく来るお店だよー」
「む……」
ずっと周りを見ないように自分の足元だけ見て歩いていたら、目的地に辿り着いたようだ。八代の声にようやく顔を上げると、物凄くイケてる感じの店員が2人、拙者たちの目の前に立っていた。
「ひっ!?」
「こんにちは~」
「いらっしゃいませ!八代君、今日はシンジ君と一緒じゃないんだね」
うわうわ、リア充イケメンどうしの会話が目の前で繰り広げられている!!
ここは一体どこでござるかぁぁ!何で拙者はこんな恐ろしい場所に!?!?
「シンジは仕事が忙しいですから」
「そっちのお友達?……は、なんか気分でも悪いんじゃない?顔色が悪いけど」
顔が悪くて悪かったな!!(聞き間違い)
色んなダメージ一気に喰らいまくって心が痛いんじゃ!!
雨宮氏なら即死してるぞ!!
「えっ?永田くん大丈夫?」
「顔は今更どうにもならんけど、大丈夫でござる!」
「??」
クソッ、このビルのイケメンどもを全員駆逐してやりたい……!
実際は面倒くさいからそんなことしないけど!!
「それにしても、随分懐かれてるんだね。さっきからずっと腕組んでるし」
「学校の後輩なんですよ。もう可愛くって」
……ん?
そこで拙者はようやく、自分の腕が八代の腕にしっかりと絡み付いてることに気付いた。
「ンギャァァァ!!」
「永田くん!?」
「ち、ち、違うでござる!!これは、これは決してその、懐いてるとか好きだとかそういう感情から来た行動ではなくて!!そう!!ナマケモノの真似でござる!!」
「どっちかっていうとコアラじゃないのかな?」
「うるせー!どっちでもいいわ!!」
あああああ!!
マジでありえねーでござるゥゥゥゥ!!
恥ずかしすぎる!!!穴があったら入りたい!!あっ、試着室がある!!入ろう!!
拙者は隣の方にあったカーテンで閉じるタイプの試着室の中に飛び込んだ。
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