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〈18〉それRIONだってよ
そしたら……。
「あ、永田くん試着してくれるの?じゃあ俺服いくつか選んでくるね~」
「……あ?」
八代は浮かれた声でそう言い、拙者の服を選びに行った……らしい。
はあああ、もうどーにでもなれでござる。
それにしても、オシャレな服屋は試着室までオシャレでござるな。
拙者は中に置いてある椅子に座ってもう一度ため息をついたが、すぐにシャーッとカーテンを開けられた。
「早っ!」
「上はこれとこれ、下はこれ履いてみて~。着たら中から呼んでね!」
渡されたのはシンプルな白シャツと紺地に少し模様が入った薄手のカーディガン。それと細身のブルーデニム。
こんなピタピタなズボン履きたくねーが、試着室にいる以上は着なきゃ追い出されるでござるな……。
嫌だ嫌だと思いながらも、仕方なく袖を通した。
服はシンプルなのに、なんか知らんがオシャレだ。
オシャレってのは金を掛けないと無理なモンだと思っていたが、案外そーでもないのかもしれないでござるな。
つーかサイズ、ジャストサイズとかキモっ!
なんで腰回りまで当てられるでござるか!!
「ハァ……」
振り回されているとは分かっていても、奴は全然人の話を聞かねーから、とりあえず言う通りにしてさっさと帰るのが得策でござるな。うむ。
服を着たので、カーテンから顔だけを出して八代を呼ぼうとしたが、近くに居ない。
くそ、呼べとか言うなら近くに居ろォ!!
すると、店員と談笑してる奴の声が聞こえた。案外近くにいたでござる。
「これ、――の新しいポスターですか?」
「そうそう、今季の――。相変わらず美人だよね~、男なのに」
「写真だけ撮ってく女の子も沢山いるんだよ」
八代と店員は、店内に貼ってあるポスターの話で盛り上がっていた。
拙者がいる位置からも少し見えたが、それは少し長めの髪を色っぽくかきあげた、とても中性的な男性モデルのポスターだった。
透き通るように色白で、目が大きくて、手足が長くて、写真なのに同じ人間とは思えない神々しさだ。
そのポスターを目を細めて眺めている八代の横顔は、なんだかひどく切なげに見えた。
「もしかしてあれが、千歳シンジなのか……?」
ふと、その名が口から突いて出た。
その声で気付いたのか、八代がこっちを振り向く。
「あ、永田くん着た?見せて見せてー」
八代は相変わらず拙者には笑顔を向けてくるが、なんだかひどく痛々しく見えた。
……無理に千歳シンジのことを忘れようとしなくてもいいのに。
拙者の好きな相手は二次元だったが、失恋の辛さは多少は分かるでござる。
でも相手が三次元だと、きっと拙者には想像出来ないくらい辛いのでござろうな……グッズをヤフオクに出品することもできないし。
いや、それはできるか?雑誌売るとか?
「うん、凄く似合ってるよ!」
「あん?」
「永田くん、意外と私服が派手だったから。でもこういうシンプルな方が似合うと思うなぁ」
「はあ!?」
派手って……オタクの制服である赤チェックシャツがか!?まあ、この白シャツ紺ブラウスに比べたら色は派手でござるが!
「思った通り細いし、さっきのダボッとしたパンツよりもこっちの方が足も長く見えるよ。トータルバランス的に……うん、すごくいいと思う。垢抜けた感じするね」
「そーでござるか。じゃあこの服上下、全部お買い上げするでござる」
「え!?買うの!?」
「目立つのは嫌いでござるからな!」
地味なら地味な方がそらいいわ!
自分の服装はダサいとは思っていたが、派手だったとは思いもしなかった……極力目立ちたくないのに……。
「じゃあもう、今日はそれ着てる?」
「そーでござるな」
あとは帰るだけだけど。
八代は店員を呼ぶと、服のタグを切るよう頼んでくれた。元々着てた服は、ショップの袋に入れてもらった。
勿論、服の代金は自分で払う!八代が払いたそうな顔でこっちを見ているが!!
はあ、服三着、あこりんを売った金がほとんど無くなったでござるな……。
まあいいか。
店員が会計をしてる時に、先程八代達が話していたポスターをもう一度チラリと見た。
モデルの男は明るい茶髪で、線が細くて小顔で思わずハッとする美形だ。
勿論女に見えるというわけでもなく、れっきとした男なのだが、『美人』という形容詞がよく似合っていた。
拙者のイメージしてた千歳シンジ像とは少し異なっていたが、それでも美形であることには変わりない。
雨宮氏たちがあれだけ騒ぐのも分かるでござるな。
拙者との共通点と言えば、目と鼻と口の数が同じってところくらいか……?
こんな美形に惚れてたのに次は拙者に惚れるなんて、八代の奴冗談にしても笑えんな……いや、かけ離れすぎて逆に笑える。
やはり、最初から拙者は八代にからかわれていたのだろうか。
……まあいい。その方が拙者も気が楽だ。
昼飯はオゴリだったし、地味な服も選んで貰えたし、無理矢理リア充の巣窟に連れて行かれたのは多少ムカついたでござるが。
無駄すぎる休日では無かったから、それは良しとしよう。
けど、もう二度とこいつとデートなんか行かないでござる。
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