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キスのしかた②
柔く、一度。
押し付けて、離す。
眞澄の体がきゅっと強張る。
その腕に手を添わせ、柔い力で啓太は拘束にならない拘束を施す。
嫌だと思えばあっけなく、逃れられる拘束。
もう1度、啓太の唇が重なったとき、眞澄はきゅっと目と、唇と、体を閉めた。
力を込めすぎた拳がふるふると痙攣している。
本当は嫌なんじゃないか、とか、啓太の頭の片隅をよぎる。
過って、離した唇で眞澄を伺う。
待っても訪れない3度目のキスに、その切れ長の目がしずしずと開く。
紅潮して潤んだ瞳が姿を表して水の中に沈んだ柔い水晶のようだった。
「せん、ぱい。」
赤い唇が、震えながら呟いた。
温かな吐息が啓太の唇をかする。
項をゾクゾクと欲情が駆けあがる。
さっき確かめたばかりの赤い唇の触感をもっと確かめたくなって啓太は膝を摺って距離を縮めた。
「先輩、」
声が甘い。
それがどこから発せられるのか確かめるように啓太の指先が喉に触れる。
―――好きだって、言った。
触れて欲しいとも、眞澄は言った。
だから、啓太に触れられるのは、嫌じゃない。むしろ嬉しい。
嬉しくて、もっとこの、少しかさついて柔い感触が欲しい。
欲しいけれど、
―――キスって、どうやって息すんだろ。
困ってしまって目を伏した。
―――そもそも、目は閉じるもの?
世間で言う普通が眞澄には全く判らない。
初めての両想いはそのまま全部が初体験だ。
急に心臓が早鐘を打ち始める。
内側から肋骨をバカバカ殴りまくって、目を閉じていいのかさえわからなくなって、口をきゅっと閉じて目を見開いた。
ぱっかーんと開いた目に啓太が映る。
その目に臆して啓太は、くきゅと音を立てて唾液を飲んだ。
「……お前、目力強いな」
一瞬何を言われているのかと、眞澄は目をくるりともう一回り大きく見開いて瞬いた。
その様を見て啓太が笑う。くすくすと、全く予期していなかった事態に遭遇したように。
「えっ、あっ、なっ」
啓太の反応になにか間違ったらしい自分の行動を省みる。
省みたところで何かが悪かったらしいことは判るものの、何が間違っているか判らない。判らないまま、羞恥に襲われて眼前が真っ赤になる。
啓太の顔が少し遠退いて、いつもの、優しい先輩が笑う。笑いながら、髪を撫でる。
髪が撓む。
くすぐったくて気持ちよくて、余計、顔が真っ赤になって視界が滲むのに心臓が冷たい。
―――もっと上手く、何でもできればいいのに。
そうしたらもっと、たくさんいろんなことを共有できる。
もっと、近くなれる気がする。
「お前はほんとに可愛いな」
くつくつと笑いながら、子ども扱いする。
実際、眞澄は無知だ。
特に色恋や性的なことは、カマトトぶってるのかと思われるくらいに知らない。
「キスって、どうやればいいんですか」
知らなければ、聞くしかなかった。
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