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キスのしかた④

 頬に触れる手が一縷の躊躇いも、戸惑いも含んでいなくって、安堵するのに、落ち着かなかった。  触れた唇は相変わらず乾いてかさついていて、触れて、離れて、また、触れる。  鼻から息。  意識しないと忘れちゃって息を止めちゃいそう。  変に力が込もってまた唇を結び直し、息を飲んだ。  ―――いつ、入ってくるんだろ。  そう思うとちょっとアラレモナイかもしれないけど、少し、期待してる。  啓太と重なる場所が、繋がる場所が深くなるのを眞澄は単純に喜んでいる。  薄く開いた目に映るのは近すぎて左右がちぐはぐになった啓太の顔。  親指の先が下唇と肌の境目を撫でる。  「んんっ」  くすぐったくて、なんだか胸の奥がぶわってなって鼻から声が出た。それが自分の声とは思えないくらい、甘い。  耳の後ろを人差し指がくすぐって、首筋がぞくぞくってした。  「ふぁ……っ」  思わず口から息が漏れる。  ぺろ。  そのために開いた唇に温かく湿ったものが触れた。  ちゅる。  下唇が吸われる。形がひしゃげて、隙間ができて、小さな下の前歯を撫でる感触。  ぴくん、と肩が跳ねた。  微かに、舌がしびれてる。前歯の舌で蹲って、自分から動いていいのかわからなくて小さく息を詰めた。  ―――あ。  くちゅ、  口から頭の中に音が響く。  舌が舌に触れて、味はしなくて、そっと優しくさらわれる。  「んっ」  びっくりして啓太の薄いアンダーシャツを握った。  一瞬引きそうになった啓太の舌に潤んだ目で応えると、舌は惑いを失くして眞澄の舌の裏に入り込む。  「んふっ、」  舌の裏の血管がでこぼこしたところを撫でられる。   ジンッ……と舌全体に痺れが広がって、じわぁと涎で口の中が濡れた。  ―――すごい、溢れてくる。  くちっと、唾液が音を出す。  舌先を吸われて、歯で甘くかまれて、そっと、付け根に触れる。  舌で扱かれて、頭の奥がじんって痺れて耳の後ろから首筋が粟立つ。  「ん、んんっ」  息の仕方もわからない。  耳の奥がきんとして、頭の中でくち、くちゅってキスの音がする。  顔が熱くて、胸がせわしなく脈打って、悲しくもないのに目の前が滲む。  口の中が唾液でいっぱいで、溢れちゃう。  止まらなくなる。  びくんびくんっと、胸の奥が震える。  指先が首筋を撫でる。  「ひゃふっ」  唇と唇の間ができて息継ぎをする。  撫でられた首筋がこそばゆいのに熱くて、撫でられた場所から熱が広がる。  ―――腹の奥、キュウキュウする……。  正座したままの両ひざをもじもじと動かす。  熱い様なもどかしい様な感覚が、尻の奥をざわつかせる。  「んむっ」  再び隙のないように唇を塞がれる。  舌が歯の付け根を撫で、口蓋の柔いとこを擽る。  また、口の中が唾液でいっぱいになって、一生懸命飲み込むのが自分のものか、啓太のものかわからない。  でも、どっちでもよくて、体がかくかくして、熱くて、眩暈がして力が抜ける。  「ん、んんんっん……」  かき混ぜられるたびに首筋がぞわぞわして、下腹が落ち着かなくなる。  頭が酸欠。  ぼたぼた涙溢れる。  「ぅあ、ごめっ」  「んはぁぁぁぁっ」  目視的にその涙を確認した啓太は瞬時に理性取り戻して唇を放した。  漸くあり付けた酸素に脳がじりじりする。  「ごめん、」  荒く息をしながら、なんで啓太が謝るのかわからなかった。  ―――ディープキスって、すっごく苦しい。  くったり凭れた啓太の胸から、心地よい振動が額を撫でてくる。  いつもより早いリズムが心地よくて、口の端に垂れた涎も気にしないでその胸に顔を押しつけた。  「苦しかった?」  回らない頭で啓太の言葉に小さく二回うなずいた。  啓太の手が、柔らかく髪を撫でる。  それが心地よくて、くぅ、と喉が鳴った。  ―――でも、すっごく、気持ちよかった。  まだ唇が啓太の感触を覚えていて、残っていて、なのにもうくっついてはいなくて、不思議な感覚で、眞澄はぼんやりと自分の唇を撫でた。

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