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同級生と性講座②

 素直じゃない自分の中で、目だけはいつも素直だ。  と、眞澄は思ってる。  つい探してしまう目線で啓太を見ると、かっちり視線があって、ふわと柔く啓太の目元が緩んだ。  ぎゅぅぅって、心臓が小さくなって、ぷはって息を吐く。  上唇に比べて少し厚い下唇。  あの唇でキスをされたことを思い出すと、恥ずかしくて、胸がこそばゆくて、笑い返すこともできずに、皿の上のしょうが焼きを睨んだ。  「啓太くん、こっち見てるね」  同室の陽樹が啓太を見たままで呟いた。  櫻井陽樹は、眞澄の同室で、タメで、松田3兄弟と同中出身で、同性の国語教師が好きで、眞澄の『好きだった人』の弟。  「そう?」  食べかけの食事を箸でつつき、目線をおとした。  「好きで、好きで、仕方ない、みたいな。」  そんな目で見るんだね。  と、陽樹は極めて普通に、なんの気もなく呟いて、しゃんと伸ばした背筋で味噌汁を啜った。  「は?何それ」  あんまり平然と言うものだから腹の中がカッと熱帯びて、その熱が顔にまで伝染して唇がとがる。  「眞澄って、面倒くさいよね」  「は?何それ?喧嘩売ってる?」  今度は照れ隠しじゃなくカチンときて言葉がきつくなる。  陽樹はそんなこと気にもしないで視線を上げて眞澄を見た。  やや吊り気味の三白眼は茶色がかった鳶色で何者にも屈さない強さを持っている。  「喧嘩とかじゃなくて、本当はすごく可愛いくせに、すぐ突っ慳貪になる。」  「かわ、」  ストレートな言葉に耳の奥がつんとして、咀嚼しかけたままの口をかぱと開いた。  耳がちぎれそうなくらい熱い。熱くて、目が潤む。  目の前で、陽樹が同じ顔をして俯いた。    「……言われ慣れてるかと思った」  意外な反応に陽樹の頬にまで紅潮が伝染する。  空気が熱くなって、眞澄はシャツの襟刳りを指先でひいて胸元に風を送る。  「慣れる、とか、」  ない。  啓太はさらりと眞澄をかわいいという。  その度に嬉しくて、顔が緩む。  髪を撫でて、頬に触れる。  そのすべてが優しくて、あったかくて、胸が切なくなってもっと触れてほしいと思う。  そのすべてが愛おしくて、もっと全部触ってほしいとおもう。  「その割には今凄くエロい顔してるけど」  「エロっ……」  「もうなんか溶けそうな顔?」  ふしゅーと頭から湯気が出そう。  「啓太くん、優しいしね」  平静を取り戻した陽樹は左手で茶碗を持ち、姿勢を正して一口分の白米を箸で取る。  「セックスも優しそう」  「~~~~~っ‼」  小声に忍ばせた直球に眞澄は口ごもって箸を持ったままの手で口元を覆った。  気を抜くと羞恥に涙が零れそうだ。  「え。」   その反応に陽樹はきょろんと目を丸くする。  眞澄と同い年のはずなのに、まだ輪郭には甘さが残っていて少年っぽいあどけなさがあった。  「……まだ、してないの?」  小さく小さく落とした声に眞澄は瞼を伏せて小さく頷いた。

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