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同級生と性講座⑤
それは、つまり。
啓太の頭の中では眞澄がそうされているということ。
そう考えたら、ぶわと全身の毛が立ちあがった。
裸に剥かれて、その手に余すことなく触れられる。唇が肌に吸い付いて、体の中まで啓太で満たされて、注がれて、染められる。
ぞくと体の奥から這い上がってくるものが、頭の芯を刺激する。
あの手で全身に触れる。
頬に、腹に、胸に、腰に。
勃起した性器に触れて、ゆるゆると扱かれて、腰が甘く、痺れたみたいに怠くなる。
―――それで、射精したり、してるのかな。
啓太の頭の中の自分は。
その時、どんな顔をしているんだろう。
啓太の想像の中の自分が羨ましいような、実物以上の姿をしていやしないか不安なような気持ちになる。
そうして、もっと進んだコトをしているのか。
―――進んだコトって、なに?
無意識に自分で考えて、思い至って、また、判らなくなった。
キスをして、お互いの体に触れて、起っちゃって、で、そのあと。
―――中に出すって?内臓から溺死するって?種付けって?
自分の性癖が他人のそれとは大分違うことを知ってから、眞澄は敢えてその話題を避けてきた。
中学時代も友達がアイドルグループの誰が好きだとか、そんな話をして、そんな話の延長線にいろんな猥談もあったみたいだけれど、大体アイドルグループの話の時点でついていけなくなってドロップアウト。
保健の授業は生命が誕生する尊さとか、そっちの方向にシフトしていて、
命を芽吹かせることは出来ないだろう自分に、何に対してだか判らない『ごめんなさい』が突き上げただけだった。
そうなると性的なこと以上に、誰かが……自分が想う人が、自分を想ってくれることこそ、稀有な僥倖のように思えて、ひたすらに、ただ、ひたすらに、好きな人を追い続けてきた。
その結果、無知な童貞処女のまま。
「眞澄?」
「あ、え。」
黙りこくった眞澄の眼前で掌が振られる。身長に不似合いなほど、陽樹の手はでかい。握力も強い。
球技をしていないことが、勿体ないくらいには。
「眉間にシワ、寄ってる」
「え。なんで?」
「知らないよ、赤くなるかと思ったら考え込むから熱でも出たのかと思った」
赤くなりようがない。
だって、よくわからない。
触ってほしいのは事実だし、抱きしめてほしいと思う。
しかも裸で。
他の人に見せられないような場所も全部込みで。
なんて、凄くエロくて恥ずかしい。
でも、キスからその先が上手く思い描けなくて、でも今更誰かに聞くこともできなくて、先のコトになると赤面より先にワカラナイが頭の中を埋め尽くす。
―――口の中に入れて口の中に出す?
だとしたら確かに溺死しそう。
顎疲れそう。啓太のを口に含む自分を想像して、ちゃんとできるか不安になる。
誰かに教わらないと判らない。
判らないコトだらけだ。
誰かに————。
両手でマグカップを支えた陽樹が、唇を幽かに尖らせて淡茶色の水面を吹く。
「……陽樹」
「ん?」
陽樹は、知ってる。
その知識がどこから来るのか知らないけれど、知ってる。
だからあんな風に、自分の好きな人を満たしたいとか、言えるんだと思う。
「セックスって、どうやってすればいい?」
未知を知る興奮を気取られないように小さく潜めた声で問う。
陽樹は少し眼を見開いて、瞳を右上に逸らした。
「それは……」
思案の顔をしたまましばらく天井の白いのを眺める。眺めて、
「啓太センパイに聞いた方がいいと思う」
敢えていつもの敬称とかえたのが、耳に残った。
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