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三つ子、3分の1①

 手を差し伸べたままで、啓太の頭の中は目まぐるしくいろいろなことが回っていた。  自分の兄弟を信用していない。  正直、モラル的な面では。  入学式に在校生代表の挨拶をブッチして講堂裏で弟のチンポしゃぶってる生徒会長と、兄貴の口の中に射精してお掃除フェラまでさせてるような生徒会書記。  結果、生徒会副会長(じぶん)に回ってくる庶務全般(ざつよう)。  ―――そんなのは、どうでもいい。  兄弟がなんと言われようと兄弟であることは変わらない事実だし、翔太と優太が何をやっていたって兄は兄で弟は弟だ。  だが、  「なにか、された?」  眞澄に関しては別だ。  小さく振られた頭と、拒否された掌。  それだけでぞわぞわと何かが、獣みたいな乱暴なのが、自分の中を這いあがる。  眞澄を泣かせるような奴は、兄弟だろうが悪魔だろうが、魔王だろうが、スーパーマンだろうが、容赦はしない。  その猫みたいな大きな目からいくつもの水滴が零れ落ちたら。  それを拭うのは、自分の手だ。  手で足りないなら、胸を貸す。  声が嗄れたなら、甘い飲み物を買ってやる。  笑ってくれるなら、なんだってする。  そう思う、自分は、多分、ただの優しい男として、その目に映っている。  それでいいと、思っている。  壊したくない。  だから、踏み出せずにいる。  眞澄を泣かせるくらいなら、優しいだけの男でいいと思ってる。  そう、本当に、真剣に、思っているのに。  こちらを見上げた目が、ぱっと大きく見開かれた。  心臓が痛むくらいに無垢な表情だった。  そのはずなのに。  薄茶色の眸が、怯むのを見た。  一瞬、啓太の頭から血の気が引いた。  綺麗なフリをした表層から覗いた、汚い部分の思考を読まれたような気がした。  誰かに泣かされるくらいなら、閉じ込めて繋いで、涙が枯れるまでメチャクチャにしたい。いつの間にかそれが普通だって思い違い起こすくらい、埋めて、満たして、全部の涙を飲み込んで啜って、自分で目一杯にしたい。  息を吸い、慎重に息を吐き出して、出来るだけゆっくりと顔の強張りを解く。  薄茶色の綺麗な瞳は陽の光を反射しながら、怯えて、ふと、安堵した。  安堵して、羞恥して、下唇を噛んで、眉根を寄せた。  「あ、の」  白い肌が朱に染まる。  言い淀んで唇が結ばれ、きゅっと三度、膝を抱え直す。白く長い指はグレーを基調にしたグリーンチェックの裏腿に触れる。  指先の滑る形に、抱えた腿の張りに、腿の間、臀部と足の境、辺りが膨らんでむっちりしていた。  ―――やべ、  柔らかく盛り上がった小さな丘が意味するものに思い至って、視線をそらす。  咳をするフリで卑猥な想像に歪みそうな口許を左手で隠した。  潤んだ目で眞澄が、啓太を見上げている。  惑いながら、誘われているような気がしてしまう。  昨日の思い違いが再来して、啓太はできるだけ、気が付かないふりをしながら眞澄に近づく。  自分の影が、その茶色っぽい髪に触れたとき、はふと、眞澄のため息が聞こえた。  「う、あ」  その細い両肩を掴んでぐりんと反転させる。  容易にこちらに背を向けた眞澄の体を後ろから抱きしめ、尻をベッタリついて座り、足を伸ばした。  「予算案、出して来た」  「あの、え、と」  ありがとうございますと、生徒会会計は呟く。  背中にぴったりと胸を付けると、心臓の鼓動が啓太に襲い掛かってくる。  擡げてしまうのは啓太も同じ。  本当はこの場で触れたい。  起ったままだと辛いから、なんて漫画みたいにありがちな大義名分を弄して、翻弄したい。  ―――イジメタイ。  ちょっとだけ。  そういう嗜虐心が擡げてきてしまうのも、恋のうちだとは思う。

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