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三つ子、3分の1②
腕に力を込めると小さく眞澄が息を詰めるのが判った。
「ちょっと、怒ってるんだけど」
怒られるようなことなんてしてない眞澄が、びくんっと肩を震わせて振り替える。
大きな目が転げ落ちそうにこちらを見ていた。
「ああいうの、見たかったの?」
「そ、そういうんじゃなくて、」
耳まで真っ赤に染まったのが可愛くて余計嗜虐心、擡げてくる。
「ちょっと、知りたいことは、ありました」
「ふぅん?」
なにを?とか、具体的には聞かないでただ背後から抱き締めて耳元に顔を埋める。
少し、汗の匂いがする。
仄かな甘い匂いが、シャンプーなのか眞澄自身なのか。とにかく性感を誘われる。
もう少しでも腰を進めたら、眞澄の尾骨にズボンの張ったのが触れそうで少し腰を引いた。
甘い匂い。
砂糖菓子でできてるんじゃないかと疑いたくなるような耳殻の形。
輪郭を光が輝かせて、細かい産毛の一本一本がキラキラしていた。
「んっ……」
鼻にかかった声さえ、前歯の先で囓ったらほろりと口の中で溶けそうだ。
かり。
「ひあっ!」
びくんっと大きく眞澄の体が跳ねた。
期待通りに耳殻が崩れるということはなくて、甘さより少し、汗ばんだしょっぱさが、舌先を痺れさせる。
眞澄はきゅっと膝頭に力を込める。
その姿にさっきの残像を見る。
―――見えないように、後ろに回ったんだけど。
制服の中で、膨らんだ睾丸の形。
足の間に挟まれて少しつぶれて、歪んで。
多分、その上の辺りで半勃起してる。
ぐきゅと、喉が鳴った。
触れたい気持ちが擡げてくる。
誰も止める奴はいなくて、誰も今なら見ていなくて、
眞澄は、拒絶しない。
だから、
「センパ……」
小さく掠れた声が啓太を呼ぶ。
呼びながら、こちらを振り返るから、その細い顎に指を掛ける。
「ん……」
違和感も躊躇いもなく、唇が重なる。
乾いていて、柔らかくて何かに似てるけど、思い浮かばなくて、その記憶を探って舌で撫でる。
「ふ、あ」
そのこそばゆさに淡く開いた唇に舌先を忍ばせかけて、とどまった。
「あ。」
薄く開いたままの唇から間の抜けた声が漏れた。
震える睫毛の隙間で、濡れた眸が揺らめいている。
続けてよかったのか、止めといて正解だったのか、答えを探っている自分が男らしくなくて嫌だ。
自己嫌悪がしこって、眞澄の背中に額を宛がう。
先刻より激しくなった鼓動が額を伝って理性を揺さぶる。
―――触りたい。触りたい。触りたい。
好きになったら、気持ちいいことしたい。
好きになったらセックスしたい。
フツーのこと、正常な反応。
とは思うけど。
「俺に聞けよ」
些末な嫉妬が、好きな人をめちゃくちゃにしそうで、今はだめだと思いとどまる。
嫉妬を含んだ昏い声に、眞澄は驚いて振り返る。
その目が怯えないうちに、柔く笑う自分は何者だろう。
「やっぱり、俺は眞澄が好きだからさ、兄弟とはいえほかの男にエロいこと教わるなんて、ちょっと腹立つし」
大人ぶって余裕ぶっこいて本当はハラワタ煮えくり返ってるその顔を、見られないように俯いたまま立ち上がる。
少し汚れていそうな制服のケツを叩いた。
思っていたよりも催していなかった自分に少し安堵する。
「眞澄が知りたいなら、俺が教えるよ」
意図して眦を下げる。
こうやって笑う自分はいったい何者なのだろう。
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