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三つ子、3分の1③
風に乗って、飛行機雲が掻き消えていく。
それを見上げて体を少し反らした。
腰のあたりが少し凝っている。
「ん?」
ぴんと張ったシャツの裾に視線を落とす。
指先がシャツの裾に絡まっている。
低い位置にある眞澄の顔がどこを見たらよいのかと戸惑って視線をさまよわせていた。
「あの、」
桜色の唇が、キュッと吸い込まれて、白っぽくなる。
「あの、」
それが解かれて、再び同じ音が繰り返された。
「なに?」
特にせかすでもなく、言葉を待つ。
眞澄と話すときに啓太が心掛けるのは待つことに尽きる。
何でもそつなくこなし、しれっとした顔をするくせに、眞澄は言葉がうまくない。
練られたスピーチを覚えて、話すのはうまいのだ。
しかし、咄嗟の言葉がいつも人に誤解を与える。
そのせいで生意気だとか、偉そうだとかそういった印象を払拭できない。
売り言葉に買い言葉的な返答が茶飯で、損をしている。
本当の眞澄は、言葉に不器用で、可愛いことを啓太は知っている。
少し、風が靡いた。
短い前髪が払われて、眞澄の白い額が露になる。
「啓太、先輩は」
白い額が、滑らかで、やや汗ばんでいた。
「どうやってひとりエッチしますか」
その額に口づけたいとか、擦り付けたいとか一瞬考えた思考が幻聴を聴かせたのかと思って啓太は少し小首を傾げる。
「え。」
口を吐いた驚嘆に、白い額が一気に赤く染まった。
「あ、の、いや、やっぱ、忘れて。忘れてください」
滾るように赤くなった頬を隠して眞澄は涙声になる。
―――ひとりエッチ。
今まさにその顔がオカズになりそうで、啓太は口に溜まった唾液を飲んだ。
知りたいのは、啓太も同じだ。
卑猥なことなんて何一つ知らない。
みたいな、清純とか清廉とか、そんな言葉がぴたりと当てはまる眞澄が、その白く滑らかな指で、掌で自ら性器に触れているのかと思うと、飲み下したはずの唾液がまた、口中に溜まった。
「……知りたい」
言葉尻は疑問だったか。
ただの願望だったか、啓太自身にも判らない。
ひくんと、眞澄の肩が跳ねた。
忘れてほしいといいながらシャツに絡み付いたままの指を、啓太は自分の指で掬う。
傅くように膝をつき、その指先に口付ける。
「実演、する?」
心臓が高鳴る。
首を、縦に振って欲しいような、横に振って欲しいような、どちらにしても責任を眞澄に転嫁するような問い方。
桜色の唇はまた、きゅっと丸め込まれ、答えに窮している。
それが、愛おしくて愛おしくて、庇護欲と一緒に嗜虐心を煽られる。
良くないと、判っていながら。
その細い指に武骨な指を絡めて、啓太は眞澄を立たせた。
空は相変わらずの晴天で、屋上には塔屋の陰より他、陽を遮るものはなかった。
初夏を孕んだ青い風が背中を押す。
チャイムの音。
5限がなんだったかなんて煩わしいことが頭をちらついて、後ろを付き従う眞澄に目をやった。
「せんぱい」
潤んだ目の中に啓太だけが映っている。
もどかしげに膝頭を擦らせた内股が、堪らなくなる。
チェックの制服。
膨れた場所。
ぞわと体がさんざめいて引き寄せた腕の強さで啓太は眞澄を塔屋の壁に押し付けた。
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