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ひとりエッチ✖2①

 ―――心臓。いたい。  内側から肋を叩かれるような、脈の度に心臓が破裂しているみたいな。  「っは、、」  思わず詰めた息が唇から溢れる。  「んっ」  カチっ。  軽く、歯がぶつかった音がして、啓太の顔が離れる。  顔が熱い。ゆだりそうなくらい。  両手の平がピッタリくっつきあって壁に押し付けられた手の甲が擦れる。  ―――虹彩が、茶色い。  眼前に迫った啓太の瞳のいろ。  陽に反射して薄く見える。  縁取る睫毛は短くさっぱりしているのに密で濃い。  短く吐き出した息と息がぶつかって混ざる。少し冷たい日陰の壁で背中が冷えるのに体の奥が熱い。  ―――あ。  啓太の目が、また、近付いてくる。  少し開いた唇が迫ってくる。  ―――キス、される。  ひとりエッチの中にキスはない。  キスは二人でしかできない。  ひとりエッチを教わりに来たのに。  そんな些末なことを微かな理性が言い訳にしようとする。  ―――キス、されちゃう。  唇の合いに舌先が触れる。  ちろと舐められて、目の前がくらくらする。  唇が塞がる前から脳が酸欠を起こして息が苦しい。  「んっ」  はむ。  唇を食まれる感触。  上下の唇に、上唇を挟まれて、まるで犬がじゃれるような甘噛みを受ける。  ―――くすぐったい。    ぎゅって指先に力が籠る。  瞼を閉じたら、唇に全部の神経が集中して、温かくて、くすぐったいだけじゃないものが肩の力を奪った。  「ふあ、」  ちゅると入ってきた舌が、舌の上を触る。  滑らかな表面なのに、細かなざらつきがあって、それが下腹部のあたりをもぞもぞさせる。  「んんっ」  口の中は唾液が止めどなく溢れて、嚥下するだけで精一杯で、眞澄から啓太の愛撫に応えることもできない。  ―――ふたりでスルなら、啓太センパイにも、気持ちヨクなってほしいのに。  薄く開いた眼に、思っていたよりもずっと余裕のない啓太の顔が曖昧に映った。  眉間に皺が寄っている。  その掌が、実は少し汗ばんでいてしっとりと吸い付いてくるのがお互いの持つ引力みたいだ。  「んぅ」  口蓋の奥を舌先で撫ぜられて、ぞわぞわと喉の奥がもぞがゆくなる。  ずくんずくんと、脈打つのが、胸の中だけじゃなくて、下半身にもあって、どうしたらいいかわからなくなって膝頭をこすり合わせた。  ちゅぷ、ちゅる、  淡い水音が晴天下に響いて聞こえる。  掌の引力が弱まる。  指先が手相をなぞるみたいに触れて、離れる。  唇が解放されて、息を吸う。  冷たい空気が肺を満たして、それはどこか空寒かった。  茶色い虹彩が伺うようにこちらを見ていた。  「ぅわ、」  「ごめん、」  頓狂な声が出たのは、少し驚いたからで、胸をさわられたのが嫌だったからじゃない。  なのに啓太の手はすぐに離れてしまい、気まずい沈黙が、漂う。  分厚いブレザーの上からじゃ、掌の固いマメも指先の毛羽だったささくれも感じられなくて少し、ほんの少し寂しさすら、覚える。  少し俯いて、少し羞恥して、眞澄はブレザーのボタンに指をかける。  律儀に校則を守った三つボタンが解けると薄いシャツの上でネクタイが翻った。  「触って、ください」  言ってから目にじわりと水がにじむ。 

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