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口の使い方②
繋いだ手から啓太の体温が流れ込んできて、眞澄の胸はなんだか意味も分からず甘く、温かくなった。
啓太の腕に付けられた腕時計は、もうじき5限が終わるのを示していた。
―――これは、セックスなんだろうか。
男同士のセックスが具体的に何なのか、どんなものなのか知らない眞澄にとってはさっきの行為だって十分に卑猥で、エロくて、そして、啓太にすごく近づいた気がした。
どんなふうに射精したんだろう。
唇に湿った感触がまだ残ってる。つないだ手の柔らかい温かさとは違う。
じんっと腹の奥を突くような熱。
啓太の性器はどんな形をしているんだろう。
口に触れた瞬間にじわっと湿っぽくて青っぽいのが広がったから驚いてしまって確認するような余裕もなかった。
同じ人間なのだから形状はさほど変わらないだろう。
―――見せてほしいって言ったら、見せてくれんのかな。
知りたいことは教えてくれると言われた。
結局、啓太がどんなひとりエッチをしているかは判らず仕舞いだったけれど、流されてしまったけれど、はぐらかすつもりでそうなったわけではないことくらい眞澄でも判ってる。
―――あ。
後ろから少し見上げて、啓太の後頭部を見た。
耳が、赤い。
それを見たらさっきまで自分たちがしていたことが頭の中をフラッシュバックして頭のてっぺんにまで熱が昇ってきた。
―――うわ、うわ、うわうわ……!!
顔面が爆発しそうだ。
学校であんな濃厚なキスをして、乳首、触られてすごく感じてしまって腰が砕けるくらい触られて、あまつさえ、口に入れようとして……。
―――これって、アレだ。
ぎゅっと強く啓太の手を握ったら、さりげなく啓太は振り返ってくれる。
「どうした?」
その柔らかい気づかいと、さっきまでの行為とが頭の中でくるくるオーバーラップする。
「いや、いや、あの」
何でもないですといった声が小さく幽かになる。
学校の屋上+恋人+ヒワイな行為=……
―――アオカンだ。
初恋人で初エッチで初体験なのに外だ。
それってどうなんだ。
しかも学校。
「眞澄?」
目の前で問いかける声は優しくて困る。
こんなにも優しくて誠実な人相手になんてことをしたのだろうと思えてきてしまう。
———出物腫物ところ嫌わずか!
そもそも話を振ったのは眞澄の方で、セックスについても経験も知識も殆ど0だというのに『ひとりエッチ見せてください、グヘヘヘヘ……』って完全に変態だ。
しかも勢いで口に入れようとしちゃうし、セックス(正しくは違う)しようとしちゃうし。
これはいわゆる逆レイプなんじゃないだろうか。
大丈夫なんだろうか。
こんな風に優しく手を引いてくれてはいるけれど、内心では『とんでもない淫売を恋人にしてしまった』とか思われているんじゃないだろうか。
思い返せば思い返すほどに自分の行為が失態か醜態にしか思えなくなってきて、このまま手をつないでいてもいいのか不安になる。
でも手を放すのはもっと不安で、きゅっともう一度強く握った。
「……やっぱ、なんかあるだろ?」
ほんの少し腰を屈めて、啓太は眞澄を覗き込む。
眞澄が思ったようなことなど、一切考えていない顔でただ、少し不安をにじませたような眼で優しく問うてくる。
「気持ち、悪くなった?」
ゆっくりとかみ砕くような言葉。
少しぽってりとした唇が動くとあのキスの感触がよみがえってくる。
首を横に振ると啓太はほんの少し困った顔をした。
「眞澄が嫌なら、もうしない」
啓太の言葉はぽとんと胸に落ちてきてじんわり黒いシミになる。
そのシミが広がりそうな気がして、眞澄は繋いでいない手で自分のシャツの胸を握った。
ボタンが掛け違っている。
「嫌じゃありません」
頭の中を占めていた訳の分からない想像や自己反省が全部吹き飛ぶ。
「先輩に触られるのは、気持ちよかったし、俺がしたくて、したことだから」
ぎゅっと強く、シャツを握る。
後でボタンをかけなおさなきゃいけない。
「もうしないとか言われたら、俺は困ります」
はっきりと言い切って、握っていた手をさらに握りしめた。
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