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口の使い方③

 はっきりと言い切って、ほんとは嫌になったのは啓太の方なんじゃないかって思うと矢も盾も堪らなくなる。  ―――先輩の方が、嫌だって感じたなら。  どうする?  どうにもしようがない。  嫌だって言われたのに、それでも触ってほしいとか、そばにいたいだなんていえない。  そんな風に言われてもそばにいられるほど、図太くない。  想像したらそれだけで苦しくなって、つないだ手を緩めた。  緩めたはずの手は、キュッときつく握られて、心臓がまた大きく跳ね上がる。  「っ、」  息を詰めた音。溜飲に伸びあがる喉元。  「はぁぁぁぁぁぁぁ……」    肩から虚脱して深く深く啓太は息を吐き出し、そのまま……ギュっと眞澄の手を握ったまましゃがみこむ。  「先輩?」  自分の膝あたりまで小さくなった啓太に視線を合わせて眞澄もしゃがみ込む。  まるで祈るように自分の両腕に埋めた頭から、いくつかの呼吸が聞こえてきた。  「よかった」  小さな声が耳に届いて、目の前少し伸びた坊主頭が持ち上がる。  潤んだ目が正面から眞澄を捕えた。  「これでイヤだとか言われたら、実質シツレンじゃん。俺、眞澄に嫌われたら一生浮上できないよ」  優しい眦が下がると、少し合わさった睫毛が濡れて色を濃くしていた。  ぎゅうと心臓が小さくなる。狭くなる。息が詰まって好き過ぎて仕方なくなる。  「俺、」  少し不安げだったその顔が、安堵に涙目になったその睫毛が。  ―――好きだ。  触りたい、もっと近くにいたい。  全部ひとり占めしたい。  「もっといろいろベンキョーします」  しゃがみこんだままで眞澄は正面から啓太の顔を見た。  日に焼けた張りのある頬だった。  「ベンキョー?」  「ベンキョー」  勇んだ返事に啓太は小首を傾いだ。  「先輩がどうしたら気持ちよく俺のこと触れるかとかユーワクの仕方とかセックステクとか満足してもらう方法とか」  するする出てくる言葉は立て板に水。立て板に滝。立て板にナイアガラ。  好きだ、が込み上げてきて変な言葉に生まれ変わって唇から溢れてくる。  好きだから好きだから好きだから。  「正しい口の使い方とか、先輩の好きなプレイとか、あと、」  それから、それから、  いっぱい触れて欲しいから、いっぱいキモチよくなって欲しいから、いっぱいふたりだけのヒミツが欲しいから、  「あと、」  他には。  何をしたらいいだろう。  俺は。  何をしたら、啓太に『好き』が伝わるだろう。  「あと、先輩はどんなこと、したい、ですか」  少ない知識と全くない経験から来る想像が尽きて、眞澄は啓太に助けを請う。  啓太がシたいならどうされたって構わない。恥ずかしいけど、乳首に触られて、擦られたり、捏ねられたりするのは、キモチイイ。乳首だけじゃなくて、体に触られるのはキモチよくて安心する。息が苦しくなるのは怖いけど、口の中に出されるのは多分、大した抵抗はない。だから、教えてほしい。  先輩が、俺と、シたいこと。  俺に、シたいこと。  全部。  本当はミチのリョーイキが広すぎて何を勉強したらいいかわからない。  正しいセックスの仕方だってよく判ってない。見聞からの憶測を丸飲みしている。  だから、  「教えてください。」  真っ直ぐ見据えた目で問うと、啓太は小首をかしいだままで硬直していた。  

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