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勤勉なフリ①

 共用の座卓にふたつ、カップを置いた。  パックのミルクティーを分け合ったベージュ。  ―――すごく、エッチなことをした気がする。  口を付けながら、日中がまるで夢みたいに思い出された。  思い出すだけで頬が額がぽっぽ、ぽっぽと温かくなる。  座卓に座るとほぅ、と溜め息が出る。それさえ熱くて、風邪をひいたみたいだ。  溜息の音を合図にしたみたいに、陽樹が振り替える。  「ありがとう」  陽樹は鼻先で息を吐き、学習机から座卓に降りる。  部屋に戻ってきた瞬間から眞澄の高揚は筒抜けで、『今日の出来事』を話そうとした瞬間に「提出プリントだけ作らせて」と断った。  片付けるべきものを片付けておかないと居心地が悪いのが、陽樹の質。  「プリント、もう終わり?」  「終わり。で、何があったの」  陽樹は息を吐いた分、補充するようにミルクティーを口に含む。甘ったるいのが頭を使った後には心地よい。  「俺、」  自分のマグを握りしめて眞澄はこくと喉を鳴らした。  話したかった筈なのに、聞かれると言えなくなる。  このジレンマはなんだろう。後ろめたい。なのに話したい。  「なに?」  何てことなく促されて堪らなくなる。  くきゅと、喉が鳴る。  「俺、先輩とシた、かも」  間。  陽樹は唇をカップに押し付けたままで、紅潮する眞澄の顔を眺めていた。  「……なにを?」  小首を傾げた春樹はどこか幼いネコ科の生き物のようで、自分と同い年のはずなのに随分年下に見えた。  これがセックスの効果なんだろうか。  陽樹より先に進んでしまったような気がして、それが陽樹を幼く見せるんだろうか。  「?」  陽樹は急かすでもなく、小首を傾いだままのクルリとした目で眞澄を見てくる。真っすぐで、少し、真っ直ぐすぎるくらいの目で。   「せっ……」  口に出そうとして恥ずかしさが増した。頭の中で考えるだけならその言葉に恥ずかしさはない。だけど口に出そうとした瞬間、それは生々しくなって急に現実味帯びて、ヤらしい感じがする。  「せ?」  「せっ」  陽樹の鳶色の目が見据えてくる。生硬な瞳は真摯にすぎて時々脅迫的ですらある。  「せっ、……くす……」  羞恥が勝ってマグの中を覗き込む。  「え?」  「セックス。屋上で、今日」  しちゃったかも。  ベージュの水面に曖昧な自分が写る。頬はふかふかと熱くて掌まで熱くてカップの中が温もりそうだ。  沈黙の後に伺い見た陽樹は少し呆けた顔。  一瞬、血の気が引いた。    いきなりトモダチの性事情なんて聞いたらヒく。  「い、や、あの」  こんな話、聞きたくなかったかもしれない。ひとりで勝手に舞い上がって、こんなどう反応していいかもわからないようなことを言ってしまったのかもしれない。    「えっと、あの……」  「詳しく、聞かせて?」  へどもどする眞澄の前で陽樹は小首を傾いだまま、小さく呟いた。  「俺も実際にしたことはないから、教えて」  真剣な目は真剣なままで陽樹は眞澄との距離を詰める。  部活帰りの陽樹の首筋からは汗と砂の混じった芳しい匂いがしていた。

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