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勤勉なフリ②
思い出すだけで、体温が2度上がる気がした。
それはまっさらな紙に薄い桃色を一滴垂らした白昼夢みたいだった。
下半身の緊急事態に陽樹が屋上を去ってから。悪戯した優太と翔太が逃げてから。
ふたりきりで、シたこと。
オナニーの仕方を聞いた。
厳密にはマスターベイションの仕方。
でも、好きなもの同士2人がそんな話をしていれば、ひとりエッチは必然、ひとりエッチじゃなくなる。
2人で気持ちよくなりたくなる。
「それで、教えてもらったの?」
思っていたよりもずっと冷静な顔で陽樹は眞澄の話を聞いている。
よく考えれば最初っからひとりエッチなんかじゃなかった。
屋上の塔屋の影。
舌を絡ませ合うキスをして、下腹がもぞもぞして、胸の奥がきゅうきゅうして、もっともっと触って欲しくなって、強請った。
太い啓太の指が意外なくらい器用にボタンを外した。
乳首を直に触れられると、胸じゃない場所が電撃を受けたみたいに痺れて頭の奥がふわふわすることを知った。
腹の奥。性器の先っぽ。じんじんして、びりびりクる。胸の奥が苦しくなって、切なくなるのに、もっとしてほしくなる。それと一緒にキスされると、もう何にも考えられなくなって、力が抜けて、そして……。
「気が付いたら、先輩のチンコ、口に入れようとしてた」
「んん??」
それまでただ小さく相槌を打ちながら聞いていた春樹が瞼を閉じて唸る。
いかにも理解しがたい事象にぶつかった時の反応だった。
「え?どこ端折ったの、今」
「端折ってない」
「乳首弄られて、気持ちよくなって、前立腺でも感じちゃったとこまでは判った」
「ゼンリツセン?」
「ケツの中にある気持ちいいところ」
俺も直で触ったことはないけど。
それだけで、さっきまで年下に見えていたはずの陽樹が大人に見えた。
「癖になると気持ちいいらしいよ。はじめは感じにくいらしいけど慣れると堪らなくなるって」
「え?なんで?尻の穴のそんなとこ弄るの?汚くね?」
セックスの過程で?そういう趣向?スカトロの一種?
「……大丈夫だよ。眞澄、お前、まだ啓太くんとセックスしてないよ」
「でも、俺、口で」
心なしか陽樹の目が呆れている。
それが腹立たしくて下唇を突き出した。
「口でするのはフェラとか、イラマとか言われるヤツだよ」
「フェラ?イラマ?」
「フェラチオとイラマチオ」
「なにそれ」
「オーラルセックスのこと」
「じゃあセックスじゃないの?」
「正確には前戯じゃない?」
「なんで二つも名前があるの?別称?」
「俺も違いまでは判らない」
セックスはセックスじゃないのか。
納得いかなくて眉間に皺が寄る。
じゃあ男同士のセックスって、どうやるんだろう。性器をこすり合わせたりするのか?
でもそれじゃあ、陽樹が言っていたことと一致しない。
陽樹は知っている。
眞澄は、知らない。
「じゃあ、男同士のセックスって、どうヤんの」
ヒントはそこここに散らばっている。
なのに答えに行きつかないのは自分が無意識に避けているせいなんだろうか。
「俺、あんな怖い啓太くん初めて見たんだよね」
小学生からの付き合いなのに。
ため息つきながら陽樹はミルクティーを飲む。
「翔太くんと優太くんみたいにうまく躱す自信なんてないから、啓太くん敵に回すのは嫌なんだよね」
その言葉が何を意味してるのか分からない。
むにむにと口を動かしながら何を訴えていいかわからなくて眞澄は今日だけで目いっぱい増えた疑問を頭の中に並べる。
フェラチオとイラマチオ。
前立腺。
オーラルセックス。
男同士のセックス。
「ソレに聞いたら?」
充電もしないでほっぽったスマホ。
「基本的に俺の情報源はソレ と、兄貴 だよ」
不意打ちに現れた失恋の名前。
一瞬心臓が凍り付いて、息を飲んだ。
陽樹は知らない。
目の前で好きな男の話をする友人が、嘗て自分の兄を好きだったことを。
そして、振られたことを。
未練は全くないのだけれど、振られた痛みはまだ。心臓の奥に張り付いている。
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