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勤勉なフリ③

 ぎゅっと握りしめた携帯。  にらめっこ検索サイトのトップ画面。  「いつまでにらめっこしてんの。」  陽樹の声。さっき疑問に感じたことを入力すれば全部知ることができる。  「いや、調べたら『先輩以外から教えてもらったこと』になるのかなって」  G✖✖gle先生は何でも知っている。  問題の解き方考え方。漢字の読み方意味。ヒトとのつきあい方。  フェラとイラマの違い。  前立腺。  男同士の結合法。  「何?啓太くん、携帯にも嫉妬するの」  「嫉妬?」  「今日のアレは完全に嫉妬だろ」    陽樹は両手の人差し指で目尻をきゅっと吊り上げる。それが全く啓太に似ていない。  「ほんと、あんな啓太くん、見たことない」  「嫉妬、」  反芻して思い返す。怒り心頭の鋭い目付き。  内の滾らせた熱が溢れだしたみたいな熱視線。  ぶわと、風すら意のままにして逆立った髪。  思い出して、思い返して、怖いのに。  ドキドキしちゃう。  このドキドキはどこから来るんだろう。  強引に全部奪われそうな、そんな勢いで、顔で目線で胸を射られて、あの大きな掌で捕まえられたら堪らなくなってしまう。  ———俺は、変なのか?    そういう嫉妬を見せられるのは、まるで独占されているみたいで、束縛されてるみたいだ。  嫉妬されるなんて烏滸がましいと思いながら、縛られたいとも思ってる。  ―――変……っていうか、変態なのか?    縛られたい。束縛されたい。  自分の意志さえままならないくらい、啓太でいっぱいにしてほしい。  いつも優しい先輩が、自分にだけは執着してくれたらいいのに。  「嫉妬、か。」  啓太は怒っていた筈なのに、心臓がたかたか走り回る。  それが本当に、自分への執着や、束縛なら、変かもしれないけど、嬉しい。  甘い。甘いものみたい。  「なに嬉しそうにしてんの」  陽樹に訝しみの目を向けられて表情筋を締め直す。  「なんか、恋人同士みたいだ」  スマホ握りしめたまま、神妙に呟く。  こんなこと、今まで無かった。誰かに嫉妬されたり、それが嬉しかったり、縛られたいなんて。  「殴っていい?」  呆れて呟いた陽樹に眞澄が身構えると、さっと左手からスマホが消えた。  「最低限の知識くらい必要だと思うよ。今日みたいにストッパがかかることなんてそうあるとも思えないし」  華奢だが大きな手が眞澄のスマホを弄る。  「ほら」  「え、あっ、わぁっ!!」  液晶画面に大写しにされたそれに息が止まった。  多分心臓も3秒くらい止まった。  肌色が、画面の三分の二を占めてる。  全裸のまま動物みたいに四つ這いになって、後ろから男に覆い被さられている、男。  斜め後ろからのアングル。  「なに、これ」  「海外のゲイビデオ」  の静止画像。  ―――うわ、うわ、うわ……。  「チンコ刺さってるけど」  「うん、セックスだからね」  陽樹の指が画像をスライドさせると、今度は仰向けに寝転んで大きく足を開いた男の肛門に性器がずっぷりと刺さっていた。  「おかしいだろ、これ」  「でも、男同士だとほかに入れる場所ないでしょ」  「そうじゃなくて、なんでチンコにはモザイク入っててケツにはモザイク入らないの?」  そこかぁ。  確かに男の胎内挿入された性器にはボカシが入っているが、一物を咥え込んでぬらつく肉環にはモザイクがかかっていない。  生々しい肉色をした器官が網膜に焼き付く。  「排泄器官だからじゃない?」  次々と画像をスクロールさせながら陽樹が呟く。  「排泄器官……」  「入れる場所じゃなくて出す場所だからね」  「でも、イレたら、気持ちいいんだろ?」  挿入されてる男の顔は悶えながら甘い喜悦に蕩けている。  「さぁ?俺も入れたことないし」  刺激の強い写真が多くて、陽樹の目もうろうろする。好きな人にシたいコトと重ね合わせたらまた擡げてくる。  「あとは、教えてもらいなよ」  画像を映していた液晶が一瞬暗くなって、受信を知らせる。  啓太からの短いメッセージ。  『部屋、来る?』  大会で延長していた野球部の活動が、終わったらしかった。

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