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勤勉なフリ④
誘ったのは自分の方で、待てを解かれた犬みたいにメール1本で飛びついてきちゃったのも自分で。
「すー……はあぁぁぁ」
だけど、この部屋の前でこんなに緊張してる。
さっきまでとは違う。
知ってしまったことは忘れられない。
―――だって、あんな、あんな……。
肛門にチンコ突っ込むなんて思ってもいなかったんだ。
知ってしまえば容易く今までのピースがそろう。かちりかちりとかみ合っていく。
溺死するくらい、腹の中に種付けしたい、とか、いっぱいにしたい、とか。
———だから、前立腺、なんだ。
乳首を弄られてきゅんきゅんと疼いた場所。
本当はセックスの仕方を知っていたみたいな体の反応。
―――俺ってホントはインランなんじゃないか。
ぎゅって、シャツの胸を掴む。
ワイシャツのまま、下だけ中学ジャージに履き替えた自分は、啓太の性欲を煽ったりは、しないだろう。
勉強をしたいといった以上、数学の一式を持ってきた。それを見た啓太はなにを思うだろう。がっかりとか、するんだろうか。思っていたのとは違うと感じるのだろうか。
啓太も、アレを望んでるのか。
後ろから抱きすくめて、アソコにアレを突っ込みたいと思ってるのか。あの熱帯びた目で、眞澄を見て、囁いて体の中に……。
「う、わ……」
全身がぶわわわわと総毛立った。
耳が熱い。文字通りひとつになっちゃう行為。心臓がぎゅうぎゅう苦しい。想像するだけで息が出来ない。恥ずかしい。怖い。でも知りたい。繋がりたい。
繋がりたい?
「眞澄?」
「う、はっ」
いつまでも扉の前立ちっぱなしの気配に気付いたのか、啓太が顔を出す。抱えていた勉強道具が落ちる。衝撃で開いた筆箱からペンが散らばる。
「あぁ……」
溜め息のような吐息。
ノースリーブのアンダーシャツ。
その背が屈んで、ペンを拾う。
剥き出しの腕は締まっていて靭やかで、日に焼けている。
「判らないとこ、あった?」
数学のことを言ってるって判ってる。判ってるのに。
―――教えてあげる。
エッチなことに対してそういわれている気がしてしまう。
繋がっちゃったら、どうなる?
腹の中のきゅんきゅんする場所はどんな風になってしまう?先輩は、俺の中でどんな風に感じる?
セックスしたら、なにか変わってしまう?
「眞澄?」
それは、痛い?
「おーい」
目の前でカシャカシャと筆箱が振られる。立ち上がった啓太の肌に張り付いたアンダーシャツ。体の凹凸が鮮明で、自分との違いがはっきりしてる。この胸に、抱かれる。
顔が熱い。首も、胸も腹も全部。
「あの・俺、」
熱い。
その熱い手に、カサついた手が触れる。捕まる。
「おいで」
柔らかく笑って、促される。さっきの恥ずかしいのも、怖いのも、全部包まれて混ざって訳がわからなくなって頭の中は真っ白。
新しいことを知ったら、判らないことがまた増えた。
部屋の中は、啓太の匂いがする。
扉が閉じたら、それが強くなった。
近い距離で頭を撫でられたらもっと匂いは濃くなった。
「難しいこと、考えてる?」
覗き込んでくる茶色い目はどこまでも優しい。
優しいから、聞けなくなる。
大好き、が、その目から溢れてる。
「あの、」
「うん、」
うまく紡げない言葉を、待ってくれる。
そんな誠実な人だから、何を問えばいいのか判らなくなる。
「あの、」
判らなくなってしまって。
「ケツの穴って裂けたりしませんか」
真面目な顔で吐き出した質問に、啓太の顔が凍った。
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