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男の本性。①

 濃い色の液体を座卓に置く。置いてから、今日はミルクティーばかり飲んでることに気づいた。  いつもと同じ、啓太は出入り口側の辺に座り、眞澄はその向かいに座る。  左手の壁側に机があり、背後にベッド。  とっとっとっと、だった心臓がどっどっどっどに変わる。それだけで2倍速。  目の前にある学習セット(健全)を凝視する。その内の筆箱を特に真剣に見た。透視できそうな位見た。結果、細身のシャープペンと何かの記念品にもらったペン先が収納できるタイプのボールペンを透視した。  シャープペンは先が尖っていて中の器官が傷付きそうだ。なら、ボールペンの方が挿入するにはいいかもしれない。  ―――いやいやいやいや、  そこまで考えて強く頭を振った。  そうじゃない。何が突っ込めるかじゃなくてナニを突っ込めるかが大事なんだ。  「眞澄?」  「あ、はい」  ブッ飛んじゃってた思考を啓太が呼び戻してくれる。少しよれたシャツ。胸元がたわんで鎖骨の凹凸が、見える。胸筋と胸筋の間に、谷間がある。  見た目の優しげな感じとのギャップに、目眩。  本気で捕まえに来られたら絶対逃げられない。  「もう砂糖入れちゃった?」  「あ、いや、まだです」  手元のマグとシュガーポットを順に見て顔をあげる。  「ハナちゃんにケーキ貰ったから夕飯の前だけど食おうか」  「ハナちゃん」  「華村先生。」  目の前の啓太は立ち上がり、キッチンに戻る。冷蔵庫を開く音。小さな機械音。  華村朔良は、  陸上部の顧問。現国、古典、国総の教師。2年の副担。今年、公立中学から異動してきた、  陽樹の、好きなヤツ。  背が高くて眼鏡をかけている。声がでかくて、少し乱暴な印象を受けるけど、授業は丁寧で解りやすい。陽樹になんで好きなのかと聞いたら、  「判らない」  と笑われた。  ただ、好きだと思ったのだと。この人だと、感じたのだと。  そういうものなのか。  自分の好きとは、少し経過が違う。  はじめはこの人だなんて思わなかった。自分の恋を邪魔するウザい先輩の一人だと思ってた。でも、違った。そうじゃなかった。  「どうかした?」  うまく言葉にできない自分を、待っていてくれる。優しい言葉で教えてくれる。生意気だと言われる俺を、真っ直ぐに、かわいいという。髪を撫でて、安息をくれる。  「いや、華村先生のとこ、行ってたんだなって」  洋菓子店の箱を両手にしっかり持ったまま、啓太の動きが止まる。少し考えるような顔をして、下唇の厚い口が開く。  「陽樹の好きなヤツ、からかいにいくってふたりが言ってたから」  遅くなってごめんと啓太は言う。  ふたりとは、翔太と優太だ。ふたりを放置しておいたら確かに陽樹の恋はエロい方に偏って生真面目な華村は陽樹を好きだと認めなくなるだろう。  ふたりのストッパをしている啓太はすごいと思う。暴走する生エロ動画か、歩く性行為みたいなふたりをちゃんとしつけている。  「で、ハナちゃんに聞かれたんだけど」  席に戻って、啓太は紙箱を丁寧に開く。サバラン、シュークリーム、オペラ、ミルフィーユ、チーズケーキに、モンブラン。  色とりどりのケーキがぎゅっと詰まってる。それはどれも、美味しそうな宝石みたいだ。  「キス以上のことも、俺はしたいよ」  付属の小さなフォークを差し出しながら、啓太は真っ直ぐに眞澄を見詰めて告白する。  「ハナちゃんに、小松崎のことが好きなんでしょって言われて、隠す気もないから」  清純そうな付き合いにだって、性欲はある。  「眞澄の全部に触りたいし、深いところまで、俺で埋め尽くしたい」  フォークを受け取った指が触れる。ひくと、肩が跳ねたのが自分でもわかった。  「でも、無理強いはしない」  それは諦めとか、妥協じゃなくて、眞澄の意思を問う言葉。指先が離れて、手元にプラスティックのフォークが残される。  「好きだから泣かせたくない。誰より大事だから、いくらでも待てるよ」  嘘も無理もない顔で笑った啓太はケーキを示して眞澄に勧めた。

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