38 / 67

頭、馬鹿になる。②

 どうしてほしいかなんて、ひとつしかない。    ローションもない、ゴムもない。  正直、ヤッた後の事後処理もできそうにない。  でも、こうなったら射精しちゃった方がいい。  なら、  「な、や、せんぱ……」  股間を抑えた左手を奪い、右手と合わせてベッドに押さえつける。  易々とそれはできてしまう。  抵抗もない。  このまま、啓太が思うようにすれば、そのまま簡単に全部奪ってしまえそうだ。  なし崩しに、何にも知らないまま、俺の好きなように。  頭上に掲げられた腕は緩く曲げられて、乱暴されているみたいだ。  眞澄は見下ろしてくる啓太の視線から逃げるように、耳まで真っ赤にした顔を横に向けた。  早い呼吸が、胸の下でしている。睫毛が濡れて色を濃くしてる。  目の下が赤い。白い肌がまるで薄化粧したみたい。  どこまで赤いのか確かめたくなる。  首筋に触れて、色付いた場所を確かめる。  自分が付けた痕。余裕なんてなかった。  今も、ない。  鎖骨の持ち上がった皮膚の上。窪んだ胸の骨。  赤く、濃く色づいてる。  「せん、」  泣かせたくは、ない。  啓太は自分の背中に眞澄の腕を片手ずつ回させる。    「いきなり、本番はしないから」  できるだけ気の抜けた笑顔を作って、眞澄に向けた。  それで少し余裕ができたような気がした。  自分に。  しない。最後まではしない。  でも、今より先のことはする。  してやる。  ちゅっと音をならして、眞澄の鼻先に口付ける。  ひとつ息を吐いて理性を整える。  今度は吹き飛ばないように、ちゃんと。  「あ、」  胸の窪みにつけた赤い痕から真っ直ぐに指を這わせる。  本人は気にしているが決して痩せぎすじゃない。  確かに筋肉質とは言えない。人より細いし、体は薄い。  体毛も薄くて、臍の下にも、産毛が生えてるくらい。  そのさらに下は、少し濃くなってる。  口に唾液を含ませたまま指の後をたどっていく。  舌がさらさらした唾液に浸されている。  「あ、先輩!先輩!そっち、わっ」  「抜くだけだから」  下顎に唾液を溜めたまま話したら変なしゃべり方になった。  「いや、でも、おれ、いま」  「いま?」  溢れそうになった唾液を手で押さえながらしゃべる。  これはこれでだいぶ間が抜けてる。  「俺、今、あの」  はっきりしない物言いに口を閉じて言葉を待った。   「俺、今、勃起、してるから……」  一部小さくなった音声にうっかり溜めた唾液を飲み込んだ。  そんなことわかっているのに改めて言葉にされたらなんか、股間にむずむずクる。たまらなくなる。  「……うん、知ってる」  にやけそうな口を抑えて視線を上方に逸らす。バレてると判ってると思ってたのに。  伝えた瞬間の眞澄の顔といったら、何て表現していいかわからない。  でかい目、転げそうなくらい見開いて、口をあんぐり開けて。  「それも全部、見たい」  「うえっ?!」  ひっくり返った声。  「……引いた?」  「い、や、」  目の前で、真っ赤な顔で、  戸惑っている。  白い指で手で唇を隠す。  全部が、可愛くて、愛おしくて、この目に焼き付けたくて、そういうのは全部、伝えちゃっていいのだろうか。  素直になりすぎるのはお互い様で、眞澄に対してはいろんな事がすぐに唇から飛び出してしまう。  そう言うのは、眞澄にとって気持ち悪かったり、くどかったり、するのだろうか。  「いや、……あの……」  腹の上、自分を庇うように置かれた左腕がおずおずと退けられる。  逸らされた目のままでそっと。  「……どうぞ」  漸く吐き出された言葉は熱帯びた戸惑いの色をしていた。

ともだちにシェアしよう!