40 / 67
頭、馬鹿になる。④
『夕食の準備が整いました。今週の配膳係は配膳を始めてください。』
淡白な声は放送部の駿河だろう。
耳なじみはいいが、くどさも癖もないはっきりした声で、去年はアナウンス部門の優秀賞を獲ったらしい。
「ンぁ、ゥ……せんぱ……」
だが、そんな優秀な声よりも今は変声期みたいに掠れてか細く、頼り無げに鳴く声の方が魅力的だった。
無意識に腰が揺れてる。
経験はなくても本能みたいなもんで、射精が近くなると腰を振るのは人間も動物も、淡白そうな眞澄も頭ん中エロいことばっかり考えてる俺も同じ。
―――握力は、割と強い。
頭にしがみついてくる掌に思う。
———髪、抜けそう。
もともと坊主みたいな頭だし、剃っちゃえば目立たない。
それもまあ、悪くはないけどあの兄弟には何かしら突っ込まれるんだろうな。
「あ、せんぱ、おれ、」
甘い声が耳を擽る。
口の中に、自分のものじゃない体液が溢れてる。
左手で竿を扱く。唾液と、先走りのぬめりで白い竿はしとどに濡れて滑らかに掌が滑る。
あんまり乱暴にしたら、痛いだろう。とか、ちゃんとイカせてやれるか。とか、それは愚問にすぎなかったことを知る。
「ん?」
口に亀頭を含んだままで上目に眞澄を見る。
腹筋を縮めて上体を浮かせた眞澄は高熱を出したみたいな真っ赤な顔をしていた。
唾液に潤った唇から赤い舌が覗いてる。
「おれ、あたま、へんで」
「うん」
「ソコも、へんで」
「うん」
「ンァッ」
じゅっと音を立てて吸うときゅんっと睾丸が縮んだ。
「アっ、せっ、あ、吸うの、ダメです、、すったら、、、」
気をやってしまいそうな顔。
甘く熔けてだらしない。きゅっと鋭角に上がっている眉がしなだれてひくひくと唇が戦慄いている。
「出そう?」
「ひぁっ」
左手で内腿を押さえ、鼻先に陰毛が触れる。さわさわと小鼻を擽るのがこそばゆい。
「ヤ、ダッ先輩!やだ!それっ!深っひぃっ?!」
左手の親指で睾丸の舌に触れる。つるりとした薄い皮膚の更に下に襞を寄せたすぼまりがある。
「ア、ぁ、せんぱ……」
一瞬眞澄の体が戦く。戦いて、震えて、
じゅるるっ、
「ふあっ!ああっ!?」
口のなかを真空状態にして吸い上げた。
親指を宛がった窄まりはきゅぅぅっと痙攣するほどに強く締まって、口の中に青いイガイガした味が広がった。
「ン……」
鼻に抜ける青い臭いを抑えて飲み込む。
喉の奥までイガイガが広がる。
ささくれたような、毛羽立ったような。
―――結構、濃いなぁ。
びくびくと痙攣する性器と同調して青臭いのは断続的に、しかし、何度も啓太の口蓋を、喉を打ってくる。
―――あー。飲みきんのは無理かなぁ。
「せ、んぱ」
射精後の、厳密には発射中の脱力にひくひくと胸を震わせる眞澄は色っぽい。
これだけ、出てンだから、それを潤滑にヤっちゃいたくなるくらいには色っぽい。
「せんぱ、や、止まんね……」
「ん、」
口を閉じて吸い上げたまま、鼻声で返事をする。
指先でベッドヘッドのボックスティッシュを示した。
「あ、すいませ……」
まだ頭の中は判然としないらしい。
きゅ、きゅ、、と断続してアナルが虚脱と緊張を繰り返す。
差し出されたティッシュを掌に広げる。
口の中に射精されたものを舌先で押し出す。
「う、わ、」
「ん?」
ぶると眞澄の体が震えて、折りたたんだティッシュで口元を拭った。
「どうした?」
「いや、あの、」
白く細長い脚を開いたままで、浅く息を吐きながら吊り気味の大きな目がこちらを見ていた。
まっすぐにみすえた目元は赤い。
その肩をもう一度ベッドに沈めてしまいたい。折角抑えた欲情がまた燃え始める。
「けいた先輩、めちゃくちゃエロい」
そらされた視線は叱責を恐れる犬猫にも似ていた。
―――どっちが。
そんな顔で、そんな風に視線を逸らされたら無理やりにでもこちらを向かせたくなる。
こちらを向かせてもう一度唇を奪って、やっと射精の収まった性器にもう一度触れて、思考を奪ってそのまま全部何もかも奪いたくなる。
「眞澄、」
呼びかける声だけでこちらに顔を向ける従順を、逆手にとって閉じ込めてしまいたくなる。
細く尖った顎に指を掛ける。
ブツ、と放送の入る音。
嫌な予感が背後に忍び寄る。
『3年3組28番松田啓太く~ん、今週は配膳当番です。据え膳喰ってないで配膳してくださ~い』
自分とよく似ているような、全く違うような兄貴の声がスピーカー越しに殺意をはぐくむ。
ともだちにシェアしよう!