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デッドヒートと恥の上塗り。②
傍にいたいって、多分普通の感情だ。
好きだから傍にいたい。
それは当たり前じゃないのだろうか。
「デッドヒート繰り広げたって?」
顔を覗き込まれて心臓が止まるかと思った。
柔らかなベージュが満たされたマグカップはもうそろそろ、相応しくない季節になる。
漢詩の視写をする手が止まって、顔を上げた目に、啓太の優しい顔が映る。
優太とは違う。
俺にだけ、優しい。
みんなに平等にじゃなくて、俺にだけ優しくしてほしい。
「眞澄?」
「あ、すみません、呆けてた」
「うん、知ってる」
涙袋が一層盛り上がって、二重の綺麗な眸が三日月を形作る。犬みたい。誠実で賢くて、こちらの考えていることなんて筒抜けで。
大きな掌、洗い晒しの髪を撫でる。
「風邪引くぞ」
「引きませんよ、ン、」
この部屋、暖かいし。
続く言葉が、耳に触れるこそばったさに消えた。耳の後ろ。多分、啓太に他意はない。撫でる髪に触れて、その合間にかするくらい。
―――手が、熱い。
視界の端にあのベッドが映る。目の前に、下唇の少し厚い、唇。
―――この、唇、が、
自分のアレを口に含んでいた、とか。
唐突に思い出す。
含むどころか、凄い吸引力で吸われて、扱かれて腰、かくかく、しちゃって。
「眞澄?」
唇にどうしても視線がいく。
口の中に射精した。そこは深くて熱くて入っているのはアノ部分だけだったのに全身が溶けそうなくらい気持ちよくて、脳まで熔けたような気分だった。
こんなに、俺ってエロかったっけ。
「しま、した。しました!デッドヒート!」
慌てて話を戻して、何もなかったみたいに笑う。
強く握りすぎたシャープペンの芯がぱちんと弾けた。
「いた。」
小さく呟いて、啓太は額に自分の手をやる。
「あ、わ、あ、すみませ、」
慌ててその手をとって眼前に顔を見た。
焦げ茶色の瞳がこちらを見てくる。
ぎゅっと、痛くなる心臓。
握り締めた手は大きく無抵抗で見つめてくる目は、揺らがずに眞澄を映して澄んでいた。
「眞澄って、クオーターとかだっけ」
唇が、近付く。
吐息が、擽る。
「い、え」
軽く、重なる。
羽が触れるみたいに軽く。
「生まれつき、色素、薄くて」
啓太だって、真っ黒って訳じゃない。
握った手が、剥がれそうになって、今度は啓太が眞澄を捕まえる。
「先輩は、」
再び触れそうになった唇のスレスレで眞澄はぼんやりと啓太を呼ぶ。キスを求めていた唇が離れ、お互いが目視確認できる距離が開いた。
「啓太先輩は、俺が野球部に転部したいっていったら困りますか?」
デッドヒートの発端を探ったら出てきた問いに啓太は小首を傾いだ。
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