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デッドヒートと恥の上塗り。③
「困るね」
あっさり言われて落胆より先に拍子抜けが来た。
眞澄は茶色い目をくるんと大きくしてじっと啓太を見る。
自分がそばにいることが嫌なんじゃないか、とか、見られたら困ることがあるんじゃないか、とか。
そんな邪推を挟む暇もないくらい、躊躇いも迷いもなく言われたものだからただ啓太を見るよりほかなくなる。
相変わらず手首は大きな掌に捕まれたまま。漢詩は視写しきれないまま。
「それは……」
「別に疚しいことがあるとかじゃなくて、俺、眞澄がバスケしてるとこ、好きなんだよ」
柔らかく笑って啓太は手を離す。
手首のぐるりが少し、涼しくて寂しくなる。
「バスケしてる姿だけじゃなくて、さ、全部、好きだ、けど」
そこまで言って、啓太の頬が朱に染まる。
それが伝染する。
好き。
って、そういわれたら、素直にうれしくなる。
嬉しくて、心臓がぴょこぴょこと駆けまわる。
好き。
———俺も、好き。
言いたくなる。
言ったら、キス、してくれるかな。
先輩に、触ってもいいかな。
そんなヨコシマが全身から溢れそうで体を縮める。
窺った目線に、啓太がさらに目元を赤くして応える。
応える。応えて、少し体が前傾して、眼前に迫って、指先がノートの端に触れた。
視線が泳いで、そらされる。
「正面切って言うは、照れくさいな」
唇がもぞもぞと動く。
照れ隠しが、この話はもう終わりと啓太を笑わせる。
「宿題、やっちゃえよ。国語総合の先生 、課題忘れにきついから」
言いながら、啓太は読みかけの漫画本を開く。
ヒーローもののそれはなんか真っ直ぐな話で、眞澄には少しこそばゆくて、でも、なんでか啓太にはすごく似合って見えた。
「先輩、ヒーローもの、好きですよね」
「んー、そうかもな」
M/A/R/V/E/Lとか、カッコいいじゃん。
漫画だとちょっとくどいけどさ。最近のも好きだよ、ヒーローだけど人間臭くて。
宿題終わらせたら貸すよと言われて、課題を再開する。
別に漫画を貸してほしかったわけじゃないけど、七言絶句二編の視写を試みる。
なのに、目は、啓太から逸らせない。
座卓に頬杖をついて漫画を捲る指の長さが、自分の中心に絡んでいたのを思い出す。
剥がれを防ぐために丸く短く切られた爪の先が、愛撫に尖った胸の頂を意地悪く弾いた。
―――意識しちゃ、駄目だ。
指先が、唇を撫でる。
特に意識したことじゃない。でもその指の動きに視線が吸い寄せられる。
心臓がどきどきする。
変な形に成長しちゃった自分を、啓太は手で、口で宥めてくれた。
掌で先っぽを強く撫でられるのは腰が浮いて、変な声が出そうで怖かったけど、今考えれば、もっと……。
息が、熱くなる。
宿題をしているのに、こんなこと考えちゃだめだ。
でも、好きだって言われて、うれしくて、恥ずかしくて、体が反応しちゃう。
考えるだけで、体がもぞもぞして、耳が膜を張ったみたいになる。
はふと息が凝った気がした。
———今思えばもっと、触って欲しかったかもしれない。
尾てい骨からぞわぞわと卑猥な感情が走って、眞澄は頭を振って平静を取り戻そうと努めた。
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