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デッドヒートと恥の上塗り。④

 ———なんてことを考えてるんだ。  パチン、とまたシャー芯が砕けた。  「イテッ」  そしてそれは今度眞澄の瞼にあたった。  なんでシャーペンの芯って大した太さもないくせに折れて弾けたときに「私の存在意義の最たるものがこれです」と言わんばかりの痛みを齎してくれるのだろう。  「目?」  「いや、瞼に」  「大丈夫?」  「はい、だい……」  ベタだ。ベタベタだ。ベッタベタ、なんだけど。  目の前に啓太の顔がある。  「ほんとだ、目には入ってなさそうだ」  ただの、安堵の表情で、啓太は眞澄の頬を両手で包む。  けらりと笑った顔に健康そうな歯が見える。それが、最後まではしないと笑った顔に被さってしまう。  思い出してしまう。  その手が頬から離れる。  いともたやすく、あっさりと。  啓太は意識なんて、していないのに。  ―――チューとか、してほしい。  と思ってしまった自分にぎゅっと心臓が跳ねあがる。  ―――トカって、なんだよ?!  無意識に使った並立助詞。  並立は並べ立てるだ。キスの他にも同列でしてほしいことがあるみたいで卑猥だ。  髪が逆巻くほどの羞恥に襲われるのに、眞澄から目を外した啓太はそれに気づいてない。好きでも細やかに擦れ違う瞬間なんていくらでもある。ってか、これくらい擦れ違いになんか入らない。  ―――トカって?キスの他にもしてほしいってこと?  自分の深層心理に触れて恥ずかしくなる。  もっと触ってほしいとか、もっと気持ちよくしてほしいとか。考えただけで恥ずかしいのに、腹の下がむずむずして股間が忙しなくなる。  ―――から、意識するなって……。  思えば思うほどに頭の中は恥ずかしいことでいっぱいになる。  自分の腿に触れた、髪の強い感じと、触れた肉刺の痕の硬さ。口に含むために少し伏した目だとか、舌先で押し出された精液のドロッとしたのと、上目に見た啓太のなんとなくあどけない顔のギャップだとか。  そういうのが頭の中を満たして、心臓がもう一度を繰り返して、こんなことを考えている自分が恥ずかしくなる。卑猥で、どうしようもなく不埒な生き物に思える。  漫画のページを捲る音がカサと鳴る。  足を正座に正して、両腿の間に掌を押しこむ。  自分の手に、アレが当たる。想像だけで、期待して、擡げてきてる。  ―――エッチなこと、したくなったって言ったら、先輩は、こまるだろうか。  真剣に漫画を読んでいる顔に、そう言ったら、どんな反応が返ってくるだろう。  ―――いや、そんな頻繁にシたくなるってそれはちょっと引くだろ。さすがに。しかも、俺からシテ欲しいって。  エロいことしたいって思う頻度が他の人間より高かったらどうしよう。  してもらう側の俺から誘うのって、どうなんだ?  する側がしたいと思うなら、なんか理解できる。中学だって、高校でだって、ヤりたい気持ちは周りに溢れてた。それを見ながら、自分は違うことに躊躇ってた。  されたいと、思うのはやっぱり不自然で恥ずかしいことなんじゃないだろうか。

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