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デッドヒートと恥の上塗り。⑤
思い至ればそれは至極当たり前のことみたいだった。
ただでなくともこの不自然な感情を抱えて、自分は変なんだって否定的な意味で認めてきた眞澄にとって、それはどうしようもなく恥ずかしく、浅ましく、啓太に気付かれてはいけないことみたいに思えた。
少し眠たそうに啓太は目を擦る。
その頬に触れたい。肉の削げた細い顎にも。少し厚い唇に触れてほしい。
イケナイコト、フラチなコト、フシダラなコト、そう思えば思うほどに欲望は擡げてくる。
心臓がどきどきして、股の、睾丸の付け根のあたりがジュクジュクと疼く。
ぞわぞわする。
「眞澄」
声が、耳の奥に響く。
きゅっと体の奥が小さくなる。
「寝たい」
「え、」
邪推した心臓が大きく跳ね上がる。
ここは寮で隣には部活の先輩と、生徒会長がいて、眠かっただけの啓太は素直に自分の欲求を述べただけの筈なのに。
こんなことにまで過剰に反応する自分はどう考えたっておかしい。
おかしいのに。
啓太の顔が、近づいてくるんだ。
啓太の後ろに、ベッドが見える。
あの、ベッドが。
幻覚みたいに感覚がぶり返して、近づいてくる啓太の顔が視界一杯になって。
頭の中がエロいことで一杯になる。
このあとを想像する。期待する。
―――こんなに俺ってエロかったっけ?
1度知った蜜の味を何度も反芻するみたいに。
息が熱い。吐き出すと胸が苦しい。
キスのしかたを、思い返して復習した時に。
ちゅ。
額に柔らかな肉の感触がした。
額に。
「ごめん、ちょっと寝るから、帰る前に起こして」
軽い口付けを額に残して啓太は座卓に伏す。
その感触を、掌で撫で摩る。
額に。
キス。
こちらを向いた坊主頭の旋毛。
寝入る前の深い、吐息。
ぶわ、
と、一気に体温が上昇した。
勝手に期待して、勝手に気分が高まって、だってそもそも期待する要素なんて何一つなかった筈なのに、何で。
本当に自分は変なんだと思い知る。
こんなに。こんな風にヨクジョーして、欲しがって、どうしようもないインランみたいだ。
―――やっぱり、今までこんなことなかった。
好きな人は今までだっていた。
ただ側にいたくて必死だった。
でも、啓太には違う。
全部、欲しくなってしまう。
何でも、してほしいが先行する。
こんな我儘は今までなかった。
こんなエロい気持ちになったことなかった。
自分が作り替えられちゃったみたいだ。
相手に会わせて自分を変えるとか、そんな場合じゃない。
どんどん、どんどん、『自分』が出てくる。
欲張りになる。
「俺、」
自分の中に、こんな強烈な自分がいたなんて気が付かなかった。
啓太を好きになって、啓太に触れて欲しくて、見て欲しくて、って欲求はあった。でも、それはこんなに濃いものじゃなくてもっと漠然としてて、漠然と、してたのに。
生々しい実体をもったら、体験してしまったら、もっとが止まらなくなってしまった。
「俺、部屋、戻ります」
「ん。そう?」
国語総合の道具を手早く集めて座卓の上で整えると素早く立ち上がって玄関に向かった。
こんな顔、啓太に見られたら、どうしたらいいか判らない。
「じゃあ、また明日」
そんなこと知りもしない啓太は玄関まで見送ってくれる。
また明日といいながらでかい掌が頭を包んで引き寄せる。
「おやすみ」
また、額に、キス。
「お、やすみ、なさい」
やっとのことで言葉を押し出して部屋を辞す。
自分も知らない自分が暴れだしそうで何だか怖かった。
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