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擦れ違うか。重なりあうか。①

 「避けてる?」  2人きり生徒会室、問われた言葉に眞澄はきゅっと下唇を丸めた。  「避けてない」  陽樹の言葉を否定しながら顔を背けたのは、後ろめたさがあったからじゃない。  避けているつもりはなかった。  確かに、ふたりきりになったらエロいことばっかり考えそうで、それが啓太にバレたらって思ったら恥ずかしくて会いに行けなかったのは、ある。  あるけど、  「純粋に実行委員の仕事とかなんか諸々、忙しかっただけで」  「まあ、確かに忙しいけど」  ページ順に組んだ研修旅行のレジメをホチキスで留めながら陽樹は窺うように眞澄を見た。  「目の下、隈」  「陽樹も、人のこと言えない」  寝れてないのはお互いさまで、実行委員なんてなったら『生徒の自主性』を重んじるこの学校じゃ同室なのも不運でしかない。  「ウォーキングラリーの景品を夕食に連動させたのはいいとしてもコースにカッターまで入れたら夜死ぬと思うんだけど」  「死ぬほど運動させないと夜中寝れねーだろ」  部活ないんだし。  体力馬鹿でしかない男子高校生を夜熟睡させるには昼間活動させるよりほかない。自分自身の身で体感して立証されているのだが半ば登山の散策に湖カッターを組んだら当日どころか翌日もお嬢様学校並にお淑やかに過ごしそうだ。  「大体その論議のために昨日睡眠時間削られたのに、また蒸し返すの?」  「蒸し返さない」  不毛な言い争いが再び始まりそうになって眞澄は口を閉じた。  でもそうでもしないと、自分が啓太を避けている(ように見える)理由を陽樹に聞かれそうで怖かった。  ―――聞かれても、上手く答えられないし、答えられても、引かれたくはない。  陽樹は多分、する方だ。  華村先生に対して、受け入れてほしいとか、滅茶苦茶にしたいとか、ナカに出したいとか……。  そこまで考えて頬が熱くなって口を噤んで考えを止めた。止めたはずなのに、啓太に以前触れられたアソコがじんっと痺れた気がしてキュッとケツが締まった。  とにかく、普通の男みたいに「したくて」欲情する側だ。  多分。  「で、とうとう本当に処女喪失しちゃって怖くなっちゃって啓太くんから距離置いてるとかそういう……」  「え?眞澄開通したの?」  どっから湧いて出たのか生徒会長がひょっこり顔を出して、びくと体を戦かすことになった。  「小松崎、処女辞めたってよ」  「乗り遅れ感半端ないし、なんか腹立つんで止めてください。」  「翔太くん気が付けばいるし空気読めないよね」  気配に気が付かずに背後を取られた陽樹は少し唇を尖らせる。  厄介な人間が来たと思う反面、屋上での件を思い出して、翔太は自分と『同じ側』だと気が付く。  下唇を巻き込んで唇を噛み、思案して、言葉を飲み込んだ。  飲み込んだままで、視線を落とし、手の中で冊子になった計画書を見つめていた。  「あえての乗り遅れだし、あえての空気読まない感じだから。俺の場合」  「あ。」  手元の冊子を奪われて間の抜けた声が出る。  「人と同じ感覚とか、考え方とか乗ったって読んだって俺の現状とは一致しないし、そんなの参考にもならないんだから気にするだけ無駄だと思うんだよね」  ペラペラと冊子を捲る顔が大げさにゆがむ。  「この一日目の日程鬼じゃね?」  それだけ言った百戦錬磨の生徒会長サマは会長椅子に座りなおすと大きく欠伸した。

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