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擦れ違うか。重なり合うか。②
何をしに来たのか知らないけれど、部活動の時間に三年生の執行部が生徒会室にいるのは珍しい。
応接室並みに(あるいは校長室並みに)仰々しいこの生徒会室は4月の歓迎会、5月の総会の計画を立てたら殆ど使われない。他の集まりは執行部の誰かしらか、生徒会顧問の私室で行われる。
あとは執行部の公的な隠れ家みたいな、そんな風に使われていた。
―――だから多分、息抜きに来たんだろう。
サッカー部は部活がなかったのだろうか。
実行委員の仕事で部活の免除をしてもらった眞澄と陽樹に三年生の動向は判らない。
でも、啓太は部活だ。さっき中庭を突っ切っていったエナメルバックの背中を、愛おしく、レツジョウとともに見送ったのだから間違いはない。
「ちなみに、翔太くんたちの代は何やったの」
「森林逃走中」
全員捕まる前に陽が暮れたし3人野宿したから割と惨劇だったよ。
けらけらと笑うから、さぞやてんやわんやしたんだろう。だが、翔太を筆頭とする曲者ぞろいの3年執行部はうまいこと大人を丸めこんだに違いない。
「伊織ちゃんにめっちゃ怒られたね」
バスケ部顧問で生徒会顧問で言葉で人殺せそうな数学教師の名前が挙がる。
一見すらりと背が高く、痩せて見えるが、もう一人の生徒会顧問、華村が横に立つと存外骨が太くしっかりと筋肉が付いているのがわかる。二人並ぶとその高身長からまるで雑誌の撮影に紛れ込んだみたいだ。
そんな身形と外見でいながら、吐き出す言葉には容赦がなく、的を射ているからこそ反論はできないし、深く抉られる。
眞澄自身がその責め苦に当たったことは幸いながら、ない。
通りが通っているうえでの間違いや失敗を責める教師ではない。理不尽さはないのだ。悪しきは悪しきと、善きは善きと認める。他人のものも、自分のものも。
たぶん、いい先生なんだと、思う。
「俺、伊織ちゃん嫌いなんだよね」
自分の肯定とは正反対に数学教師を否定して翔太は窓の外を見やった。
中庭は蒸した風に深緑を揺らしている。
「なんにも興味のないふりしてダルそうにしてるくせに、いざってなると判ったようなこと言うし、それを間違っているなんて思ってない。」
いつものオチャラケた風が鳴りを潜める。
「しかもそれが本当に間違ってないから腹が立つ」
その雰囲気は何かあったのかと勘ぐるのに充分だった。
頬杖突いた翔太は会長席から背後の中庭を見やり、その斜めに後ろを向いた旋毛を眞澄は見ていた。啓太と同じ、左巻きの旋毛。
「伊織ちゃんだって間違ってる なのに」
聞こえるか聞こえないかの声で呟くと翔太は顔をこちらに向けた。
「で。処女喪失の感想は?」
見返ったその顔はいつものオチャラケた生徒会長と変わらなかった。
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