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擦れ違うか。重なりあうか。④
薄桃色の唇がきゅっと締まる。
光の粒が淡色 の瞳を照らして春の海みたいにキラキラひかる。
何で避けられていたのか、考えれば心臓が凍えて縮む。でも、目を逸らせなくてまるで挑むように、責めるように、その目を見てしまう。
キレイだから。
見ていたいから。そんな単純な欲求が、眞澄を戸惑わせているのが判る。
輝く淡色の瞳が逸れる。唇が静かに色を失 し、俯く。
―――あ。
泣く。
思った時にはその手首を取っていた。
光の玉が風に揺れて自分の頭に当たるのが判った。抱き込んだ眞澄の髪は、すぐそこに迫った夏の匂いがした。
愛おしくて、愛おしくて、仕方なくても、判らないことはある。お互いに違う人間なのだからそれは当たり前で、言葉に出してもらえなければ知ることもできない。
でも、無理矢理に言わせるのは間違っていると、啓太は思う。
手首を掴んだまま、抱き寄せた方の手で髪を撫でる。固まって、身じろいで、諦めたように胸に縋った眞澄の、伝わってくる心音が堪らなく愛おしくて、愛おしくて。
―――さっきから同じことばっかり感じてる。
本当に怒らせているのだとしたら、こんな誤魔化すみたいにするのは間違っているのだろう。ちゃんと、何が原因か聞かなきゃいけない。聞いて、謝らなきゃいけない。
のに。
「好きだ」
訳の判らない告白が口を吐いて出ていた。
びくんと大袈裟に跳ねた体も、惑うように見開かれた目蓋の気配も、伝わってくる心音が倍速稼働を始めたのも、眞澄の全部、ひとつひとつが。
「好きだー」
ただの変態みたいだと自分で思う。思うけど、仕方ない。好きなやつの前じゃ18歳男児なんて皆変態だ。大変変態だ。大変態だ。
「好きだから、」
変態にもなる。変態なこともしたい。だって、Hの語源は変態から来てる。もっと触りたい。早く自分のものにしたい。変態だって言うなら罵られたって仕方ない。
事実だし。
こうやって抱き締めて体を密着させながら、抱き寄せた腰の、少し下にある膨らんだ尻を撫でたいとか。あの時舌で転がした乳首の感触だとか、口の中で怯えた小さな生き物みたいに震えたアレだとか、思い出してまた、狂暴な雄が疼きながら唸る。
それを曝したら、眞澄は怯えるだろう。泣くだろう。
こんなに愛おしいから、触りたい。
『味』を知ってしまった分、余計に餓える。食らい付いて、なにも考えられないくらい、『自分』で埋め尽くしたい。捕らえたい。貪りたい。
でも、その感情が眞澄を傷付けるなら
耐える。
餓死しようが、溜まりまくってタマが爆ぜようが、一周回ってインポテンツになろうが、耐える。
耐えるから。
「嫌わないで」
再び差した冷たい影に吐き出した言葉は必要以上に震えて頼りなかった。
格好悪い。
有無を言わせない強引さとか、抗いがたい野生の魅力とか。
―――眞澄はそういうの好きそうだよな。
抱き締めた体温が逃げないように力を込めるとくぅ、と小さく喉がなった。かくん、と眞澄の頭が低くなる。
「ひんっ」
「お?」
縋り付く体勢に体重が乗る。容易に支えきれる体を抱え起こしながら顔を伺った。
真っ赤だ。
「膝が、抜けました」
「なんで」
両膝がかくかくと震えて、小鹿みたいだ。
「先輩が、変なこと言うから」
「変か?」
「だって、嫌いになったりなんか、しませんから……!!」
何だかよく判らないが、真っ赤な顔で不貞腐れ俯いた顔を一層愛おしく思う。
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