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長尺バット②

翔太の部屋の玄関に靴を脱ぎ、揃えて短い廊下を進む。啓太の部屋も翔太の部屋も基本的に作りは同じだ。 小さなキッチンも玄関からすぐに見えるリビングも、そこに備え付けられたベッドも。学習机も。 変わらないのに、ここに啓太の匂いはない。  当たり前のことに反応する。  啓太のベッドは掛け布団のカバーもマットレスのカバーも夏の夜空みたいな濃紺で、翔太のベッドは限り無く黒に近い緑色だ。  「なに?ベッドばっかり見て」  「見てません」  強く否定したところで慌てて視線をそらせば肯定しているのと同じことだ。  ―――ここで、優太先輩とエロいこと、したりするのかな。  考えないようにしたところで頭の中では目眩く官能の世界が繰り広げられる。  屋上でしていたみたいな、下着の上からてっぺんをグリグリ撫でられて、腰を浮かせたりとか、頭の芯まで溶けそうなキスとか、口や舌で舐め回されたり、とか。  今目の前にいる翔太といつも部活の姿が印象深い優太がクンズホグレツするのが思い浮かんでしまう。ダメだと思っているのに、この前見た動画の一部がまるでアイコラみたいに顔と体が翔太と優太のものに入れ替わって、尻の穴の深いところに優太の性器が入り込んでる。後ろから獣姦の体で優太を受け入れながら半身捻ってキスをする。舌も、下半身も繋がって濡れている。  想像してはいけないことを想像してる。  セックスはきっと、当人同士の密事だ。こんな、想像なんて覗きみたいなこと、しちゃいけない。  ―――でも、じゃあ、俺と、先輩のなら、構わないのか?  問い掛けと想像は同時。  一気に人物は自分と啓太に変わる。アソコにずっぷりチンコ突っ込まれた自分がだらしない顔で腰振ってる。それは。酷く恥ずかしくてみっともなくて、直視できない醜態だった。  ―――ダメだ……。  考えるだけで涙目になる。  俯いて唇を噛んでちゃんと話をしなきゃいけないと思ったのにまた頭の中はエロいことばっかりになっちゃって、はしたなくて、啓太に顔向けできない。  俺の想像の中であんな風にされてるのを知ったら、絶対、嫌われる。  あんなだらしない顔で、感じまくっちゃったら、絶対、引かれる。  ――――可愛くなりたい。セックスで感じすぎちゃっても顔が崩れないくらい、可愛くなりたい。  思考の方向性が意味のわからない方に飛んでいく。  でも、自分を好きだといってくれる人にとって一番可愛い存在でありたいと思うのはおかしいことなんだろうか。  ―――そもそも、男が可愛くなりたいとか。  そこから間違っているのか。  でも、好きでいてほしい。可愛いといってもらいたい。一緒に歩ける存在でありたい。  思うと一層目頭が熱くなってきた。  「まあいいけどさあ、啓太に用事あったんじゃないの?俺今デカルトと仲良くやってるところなんだけど」  ポンと頭を叩かれて顔をあげる。眞澄より少し高い目線を学習机に向けて翔太はぐぐと大きく伸びをした。  学習机には開きっぱなしのノートと分厚い参考書。  その上に大きなヘッドホンが無造作におかれて、眞澄の知らないアイドルの声が微かに聞こえていた。  「眞澄も聞く?」  「いえ……」  「センターの子がまだ14でさー、超絶美少女なのに新曲男装でなんじゃこりゃってなったんだよねー」  そんな話をされている眞澄の方がなんじゃこりゃだ。  なのに翔太は意にも介さない風でヘッドホンにから映えたコードを辿り、参考書に潰されていたMP3プレイヤーを取り出すと指先で弄った。  微かに聞こえていた甘ったるい声が止む。  ついでのように翔太は参考書とノートをいっしょくたに閉じ、ベッドにぼすと腰掛ける。  「で、啓太のチ○コどうだった?」   スプリングがきしきしと軋んだままで翔太はあっけらかんと笑う。  「あいつ、太めだし何より長いから痛かったでしょ」  悪びれることのない悪戯めいた笑いに言葉をなくして口を開いた。  ―――太くて長いんだ……。  出掛けていた涙が一気に引いていくのを感じた。

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