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長尺バット③
きっと翔太が優太を誘うときは素直に「セックスしたい」とか「いれて欲しい」とか、言えちゃうんだろうなと冷静な頭で考える。
それと同時に、この人にとってセックスは当事者同士の密事でも何でもなくて例えば好きな本の話とかに近いんだと思う。
趣味や趣向、頭の中が判ってしまうから公では話せないけれど、親しい間柄であればある程度以上話せる、みたいな。
「……してません」
そんな人を相手にすると自分の抱えている問題が些末に思えてきた。翔太みたいになんにたいしても明け透けに言えたらこんな風に考えすぎなくても済むんだろう。
でも、眞澄は翔太みたいにはなれない。
啓太の一挙手一投足に心臓が壊れそうなくらいドキドキして体の中の中まで、触って欲しくなって……そういうの全部を啓太に曝すのはやっぱり恥ずかしい。
「え?それで喧嘩してたんじゃないの?」
「喧嘩もしてません」
被せぎみに答えると翔太はへぇ、と曖昧に返事をして自分のとなりを叩いた。
「まあ、座れば?」
促されるまま、とりあえず座ってはみたものの、何を話していいか判らない。
判らないけどとりあえず、翔太の言葉が頭から離れない。
―――太い、長い……。
見たはずだし、触りもしたはずなのに、明確に覚えていない。
自分のとは違う形をしていた。
屋上で見たときは頭ぶっとんでて、凄い反り返ってたのだけ覚えてる。
―――凄い、反ってた……。
曖昧な記憶の中でソレを右手で握って口元に添えられたのを覚えてる。先端が口に、触れて、ちょっと、しょっぱいような気がした。頭の部分はつやつやしてて、棹が長くて、啓太の大きな手でも余るくらいで。
思わず、息が熱くなる。
啓太の手は野球をやっているからかでかい。幅広で、指が長くて、
―――え?え?え?
その手で握って余るほどって。
「一気に顔色青いけど、大丈夫か?」
目の前で手を振られる。
翔太の手も男らしく厳ついが、啓太の手はそれ以上で。
「ぅわ……」
それは怖い。
だって、突っ込むべき場所じゃないところに、それも、そんな奥まで突っ込まれたら。
「こわ、」
「ん?」
片眉上げた伺う顔が啓太によく似ている。ふとした瞬間にやっぱり、兄弟なんだって思う。
「もしかして」
「うわ、あ?」
目の前で降られていた手が肩を押さえつける。そのまま体重がのし掛かってきて黒緑色のシーツに押し込められた。
「ここまでされて怖くなっちゃったとか?」
照明の明るさに翔太の顔が暗くなる。
見上げた顔ははっきりしなくて、昨日の啓太と被さった。
ぶると、体が震えた。
自分は何をされているのだろうかと、状況の把握ができなくなった。
「それとも、もう少し先までイッた?」
息がしにくい。翔太の顔が目の前に迫っている。ひくと、喉が鳴った。
「どこを触られた?どんな感じだった?」
ふふと笑った表情はやっぱり啓太と似てなんかいなかった。
―――触られた、場所。
つきんと、胸が痛くなって、腰が震えた。
―――挿入のための、前戯。
思い浮かべた凶器みたいな性器に怖じ気づいたのに腹の奥がむずむずした。
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