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キス、の効能①

 真面目で考えすぎて暴走する旋毛が、こちらに向いていた。  ―――それは、つまり。  啓太は胸の中の蟠りが安易に解けていくのと同時に謀らずも芽生えた劣情に戸惑った。  ―――つまり。  「期待?って、」  動揺と欲求と欲情を、口許をおおった掌で押さえ付ける。勇気振り絞ったみたいな相手をこれ以上責めるのもどうかと思うけど、これは確認しておかなきゃならない気がする。  気がするけどどんな聞き方をすれば、眞澄が躊躇わずに答えられるかわからない。  もっと、くっつきたいってこと?  もっと、一緒にいたいってこと?  それなら眞澄は躊躇わないし、避けることもない。  ーーーもっと、キスがしたい、とか。  それくらいでも、多分眞澄は羞恥して卑猥だと感じて口ごもるだろう。  それでも多分。キスなら、口ごもるくらいで、首肯はしてくれる。  ーーーそもそも、キスくらいじゃ、俺が収まらない。  今だって、その服をひん剥いて、この間みたいになんにも考えられなくして、気がついたら『俺のモノ』みたいに、してしまいたいと思ってる。学習の末に身に付けたスキルでネットで買ったキャスケットの中のローションとコンドーム(ひみつ)。コンビニ受け取りにしてたって、寮生には中々困難。そんな堂々たる壁をひょいと飛び越えさせた恋人は、今、目の前で自分の欲情を、劣情と勘違いして羞恥している。  ーーーもっと、エロいことしていいってこと?  そう聞いて、間を隔てる座卓を上に乗ったマグカップごと退けてしまったら、眞澄はどんな顔をするだろう。見開いた目で、怯えるだろうか。それとも、あのときみたいに蕩けた目で、自分を見るんだろうか。でも万が一、羞恥して、恐れて、避けられたら……そうしたら。  ーーー強行に、出るかもしれない。  諦めるなんて言う生ぬるい選択肢はとうに頭から消えていて、どうしたら眞澄が笑顔のままで、自分だけのモノになるのか考えてる。怖がるから、距離を取る、とか、大事なのかもしれないけれど、怖がられないように、どう間合いを詰めて自分の腹の中に納めるか、を考えてる。  ーーー正に劣情だな。  言葉を選ぶ真剣な思考の奥底で、今もなお、目の前の華奢な痩身を自分の良いように犯している。  ーーー危ないぞ。  じっくり言葉を選びながら、眞澄に警告する。  ーーーそんなに、無防備に俺を信じたら、危ないぞ。  頭の中だけで。腹の底では虎視眈々と自分から離れられなくなる計略を練りながら。  「それはつまり、この間みたいなことを、してもいいって、こと?」  結局、眞澄の許容できるギリギリのラインを狙った質問は、旋毛だけ見えていたその頭をあげさせることに成功した。  風邪をひいた小さな子みたいに真っ赤に染まった頬に触れたくなって手を伸ばした。

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