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キス、の効能③
多分、言葉を選ばずに伝えたら、眞澄が引いてしまうようなことを、考えてる。
例えば、その白い顔にもう一度白く濁ったのをぶちまけたいとか。さっき、眞澄が口にした言葉を全て理解できるように実演で教えたいとか。そんなのだけじゃない。
背後にちらつくベッドなんて見なくたって眞澄の顔を、姿を見るだけで、触れたい、抱き締めたい、が胸を締め付ける。
それはこの部屋でだけのことじゃなくて、移動教室で見掛けても、授業中に偶然見下ろしたグラウンドで長距離走ってる姿にも、生徒会で集まってるときだって、
その服を全部引き剥がして触れたい。
その手で、その唇で、肌で、触れられたい。
今、その無垢な眸を、友達と笑う表情を全部汚してしまいたい。
かなり控えめに表現してもこれだ。誰にも見えない、聞こえないことをいいことに、もっとスゴいことを考えていることなんて、ざら。
「じゃあ、」
瞳に張った淡い水の膜が光ながら揺れる。揺れながら、まっすぐに見つめてくる。
そういう目をされるから、強引にできない。
手八丁口八丁を駆使して手込めにしてしまうことができない。
ーーー両想いになっても、手強い。
それは嫌な感覚ではなく、寧ろこそばゆく胸を締め付ける。締め付けるのに、その痛みはなんだか温かい。
「じゃあ、先輩に欲情してもいいですか」
真剣な顔で、いつのまにか居住いまで正して、発した台詞がこれなら、本当に眞澄の語彙使用能力は壊滅的だ。
ぷひゅ、と、唇から空気が抜けた。
本人は真剣なのに、ここで笑うのはダメだってわかってる。わかってるから、出来るだけ音がでないように口許に手をあてがったけど、ダメだと思うほどに喉元を突き上げてくる笑いを噛み殺せなくなる。
喉が痙攣のようにひくついた。それは音となってしまいそうで、必死に耐える啓太を、眞澄は小首を傾げていぶかしむ。
「ごめん、」
耐える忍び笑いの合間に謝る。
欲情。
色めいた、場合に寄れば卑猥な意味にもなる言葉が、なぜか真剣な想いに聞こえる。
欲情、
―――するのか、俺に。
それはなぜか、勝手の判らないまま懸命に啓太の頬にキスを繰り返す眞澄の姿になって、結局、言葉の真意とは異なった想像を啓太に抱かせる。
「いいと思うよ、俺も、眞澄に欲情するし」
その欲情がどんなものか見てみたくなる。
「俺はどんな眞澄でも、好きだよ」
してみたいことや知らないことがあるのに怖いなら、ゆっくり、言葉にして一緒に進んでいきたい。
「どんな想像も、ゆっくり、実行していけばいいんじゃないかな」
少しずつ、でも、いずれ、眞澄が俺から離れられなくなるように。
笑顔の裏側で自己中が芽吹いてる。
それを上手く飼い慣らして啓太はもう一度眞澄の頬に触れる。熱い頬は俯いて、唇が動く。
「じゃあ、あの、」
掠れた声が、妙に色っぽくて下腹がずきんとした。
欲情って本来こういうものだ。
「啓太先輩の、見せて欲しいです」
言葉尻がしぼんでいく。意味を捉え損なって、表情の作り方を忘れた。
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