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キス、の効能④
本当に予想のつかない爆弾を投げ込んでくれる。
「え、っと、俺のナニを?」
「何って……」
口に出すのを躊躇って眞澄の唇がとがる。
「ナニって、そういう意味じゃなくてチンコって意味で、いや、」
「ち、」
言葉にした瞬間、眞澄の顔が更に赤を濃くする。赤面が伝染って顔が熱い。
何から言葉にすればいいかわからなくなって走る沈黙。
―――見る。
って、多分眞澄のことだからサイズの確認的な意味なんだろうな、とは思う。
じゃあ、お互いに見せあいっこで。
って言ったら、多分恥ずかしがりながらも流されて兜合わせくらいはできると思う。
―――それは、それで……。
美味しいし、チャンスだ。
とか、考えてる自分が嫌だ。嫌だけど考えるだけなら悪くないと思ってる。だって、さっきまで避けられてて話もできなくて、やっと話し合えて、自分の部屋にいたら、
触れたいのは当たり前で。
―――そうか。
こういう、啓太にとっては極自然な感情が、眞澄には烏滸がましい感情に思えてしまうのか。
そう考えると腹の中にすとんと落ちるものがあった。
もっと触りたい、と直線的な言葉にしてしまうのは。自分の沸き上がる感情に戸惑うのは。戸惑って上手く言葉にできないのは。
そうやって強請 るのが不慣れだから。
振り絞った勇気を断られる怖さを知っているから。
―――口にしちゃ、いけないような気がしてしまうのか。
白い肌を淡い紅色に染めて、眞澄はうつむいてる。瞼の動きで世話しなく、躊躇い勝ちに視線が動いているのが判る。
―――もっと、欲張ればいいのに。
先に告白したのは眞澄だ。
それは、凄いことだ。
断られる怖さを、痛さを知っていて、こんなにも臆病な後輩が、自分から放ってきた言葉。
―――うわ。
それはどれだけの勇気を必要としたのだろう。
どれだけの覚悟を要したのだろう。
それでも、惑いながら告白してきたのは。
それだけ、
―――俺を好いてくれたからか。
思えば自惚れのようにも感じるが、寧ろ身が引き締まる。
無性に愛しさが増して、抱き締めたくなる。抱き締めて、口付けて、好きだって、言い聞かせたくなる。
「……いいよ」
そうするための口実に、眞澄の要望を受け入れる。
「え、」
「この間は俺が見たんだし、いずれお互い見るんだし」
思ってもいなかった許諾に眞澄が顔をあげて呆ける。その顔を尻目に、カップを煽って麦茶を飲み干した。まだ、喉が渇いているような気がした。
抱き締めて、キスをする口実にチンコ見せるってなんかシュールだな。
「これじゃ、見せにくいから」
飲みかけの麦茶。揃えられた教科書。載せたまま座卓を持ち上げて部屋の脇に避ける。
正座したままの眞澄が、腿の上できゅっと拳を握っている。
「こっち、おいで」
優しい顔作って差し出した手に、その拳が開いて、応える。
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