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レオの決意
「何があった?」呼吸が速い、走っている所為ではなかった。焦る気持ちと裏腹に足が重くて走れないのだ。レオは勇魚に言われて飛び出したものの基之に会うのが怖くなったのだ。
「俺がそばにいればあいつが笑えるのか?」
誰に問うともなく声にする。あぜ道の雑草が夜露に濡れサンダルの足に絡む。だんだんと歩く速度が遅れだす。いつもなら十分で着く基之の家がいつまで経っても見えてこない。もしも拒絶されたらと考える、それだけで吐きそうになる。このまま永遠に基之の家に着かないのではないかと思い始めた時、道端にうずくまる男が目に入った。
「も、基之?」
レオは恐る恐る声をかけた。薄暗い道にうずくまり、頭を抱え込んでいたその男の頭が小さく動いた。
「おまえ、何しているんだこんなところで」
「か、帰れない……兄貴の、かお、み、たくない」
涙声で区切るように話すその姿にレオは基之を初めて意識したときのことを思い出した。あれは子ヤギをもらったと勇魚がペットとしてカニを飼い始めた時だった。小学生だった基之とレオはこっそりとそのヤギを見に行く計画を立てた。勇魚の家の裏山から庭に忍び込むという子どもらしいものだった。
「レオ、見て!いた!あれだよ、変な顔!」
基之が指さしながら大きく口を開けて笑う、虫歯一つない真っ白な葉をして日に焼けたチビ。あの日までは単なる悪戯仲間だった。一緒に声を上げて笑った。その時足を滑らせた基之が斜面から滑り降り散るように勇魚の家の庭に転がり落ちた。
「基之っ!」
「いってぇ」
転がり落ちた先にいたヤギが、基之に近づくとシャツの端をがぶりと噛んだ。お下がりのぶかぶかのシャツを着ていた基之は怪我をすることは無かったが、驚いて大声で泣き出してしまった。
「大丈夫か?しっ、しっ!あっちへ行けっ!」
棒切れを振り回してレオがヤギを追い払った。
「大丈夫か?」
ぎゅっとTシャツの裾を掴み、涙目で見上げてくる基之の姿を見た時にお腹の底がぎゅっとした。急に心臓がおかしいくらいの速度で走り出した。レオは自分がおかしくなってしまったのだと思ったほどだった。
「も、基之、だ、だいじょうぶか?」
「ん、ありがと。レオ?お前も震えてるじゃん。同じだ」
まだ涙の乾かない顔で基之が笑う。
「俺がさ、俺がずっと守ってやるから、基之は絶対大丈夫だから」
そうだあの日誓ったのだ。誰にも傷つけさせないと。
「基之、俺の家に来いよ。兄貴に電話しろ、な」
「ん」
基之が携帯を取り出すのを見て、レオは安心した。何があったのかは想像がつく、何も聞かない、聞きたくないと思いながら基之の手を引いて歩き始めた。
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