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二者択一
手をひいて歩くなど何年振りだろう。小学生の時はいつも一緒だった。手を繋いで走ったこともある。いつも隣に並んで歩いていた、けれど今一歩遅れて付いて来る基之は何も言わずただ黙って手を引かれている。小さい子供のようだ。握りしめた手に薄っすらと汗がにじむ。
「......なあ、どうしたらいいんだろう俺」
基之がぼそりと呟く。どうしたらいい?そんなこと自分で考えろよと思うが惚れた弱み何も言えない。おまえより俺はどうすれば良いのか教えてくれよと心の中でレオは叫んだ。
「おまえ自身はどうしたいんだ」
「わかんねえ。言葉にするまでは何とかなると思っていたけれど。言葉にしたらあまりにも温度差があって、もうどうしたらいいのか......」
告白したのだろうとは思っていたが、こうやって聞かされる身になると苦しい、いや苦しいというより痛いのだ。呼吸さえ痛いのだ。
「どうしたらいいのかって、おまえは諦められるのか?」
「諦めなきゃいけないのかな」
「ならないってことは、ねえんじゃないか?」
そういう自分自身も基之のことが諦められていないのだ。レオにしてみればこれは好機なのだろう。けれども心がささくれた基之の今の気持が分かり過ぎるから突き放すことも、その隙に付け入ることもできない。
頭をがしがしと掻くと、レオは誰に伝えるとでもなく呟いた。
「まったく、俺の気持はどこに向かえばいいんだよ」
幼い子どもの様にしゃくりあげていた基之がふと足を止め、レオの顔をじっと見つめた。
「おまえ、本気で俺のことが好きなのか?」
「殴るぞ、そんなこと冗談で言えるわけねえだろう」
「そうか、うんそうだよな。辛いな」
その「辛いな」という言葉は、レオのことだったのか、それとも自分自身のことだったのか基之はそれ以外何も言わずただ黙って後をついて歩いていた。神社の階段をゆっくりと二人で歩いた。夜露で足元が少し滑った。
静まり返ったレオの自宅についた。誰もいないのか、それとも既に眠っているのかそこだけ時間が止まっているようだった。
「親父たちもう寝たのか。表から入りづらいだろうからそこの縁側から入れよ、雨戸を今開けるから」
「ん」
レオは基之を縁側に残すと玄関へとまわった。古い日本家屋がレオの歩みに合わせて軋る。基之は改めてその家を見上げた。幼い頃から何度も通った場所がまるで見知らぬ場所のようだ。いつもここに来ればそこにはレオの笑顔があった。ただ静かに夜の闇の中に立つその建物は大きくて、冷たい感じがする。こんな場所はしらないと基之はぶるっと震えたとき、がたがたと音を立てて雨戸が開いた。
「入れよ」
ひょいと顔をだしたレオをみて、基之はほっとした。ここはレオがいて初めて自分の居場所でもあったのだと思い知った。
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