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最後の夏

 結局何の進展もしないまま、季節が変わってしまった。勇魚からは何も答えはもらえなかった。けれどレオは基之との約束を反故にしてくれた。お前の心と体、全て丸ごと貰い受けられないのなら意味がないのだと。大切にされているのは分かる、単なる友人という以上の気持があることは確かだ。けれど、それは勇魚に向ける気持ちとは違う。  「なに?」  「おまえ大学卒業したらどうするんだよ」  「レオには関係ない」  「関係ないか、お前は狡いよ。俺の気持を知っていて。それでお前の兄貴も勇魚さんも幸せになれるのか?」  「どういう……」  「意味くらい分かっているんだろう馬鹿が!」  レオの苛立ちも尤もだった。基之兄弟は海難事故で漁師をしていた父親を亡くした。そして兄弟を育てるために母親は島を離れて仕事をしている。この小さい島で漁業以外で身を立てる方法は限られている。母親との約束を守るため船には乗れない基之の兄は譲り受けた山の日当たりの良い斜面にオリーブの木を植え、オリーブ農家として生計を立てている。  「卒業したら本土の企業に就職しろ、この島じゃ大学出たって何の仕事もない」  「そうだな、うんこボウズは俺達とは違って大学出の先生だからな」  勇魚のそんな一言にさえ傷つく自分が基之は嫌だった。そして将来が決まらないと言う理由をつけて夏のインターンシップを何も受けなかった。大学四年の春までには考えると逃げを打ったのだ。もしも、万一勇魚にこの気持ちが届いたら、一緒に船に乗ると決心していた。そんな基之の浅い考えなどレオにはとっくにばれている。  「俺さ……兄貴の仕事手伝おうかなと思っていてさ」  「は?お前や将来のお前の家族まで食わせるほど仕事は軌道に乗っていないよ。俺はこいつらの面倒見るので精一杯だ」  笑顔で手を伸ばしてくる娘を誰よりも愛しいという目で見る兄。その兄の姿を何より愛しいと言う目をして見つめる勇魚に傷つく。届かないと知っているのに、なぜそんな男が良いのか理解できない。どうして兄貴じゃなきゃ駄目なんだと叫びたくなる気持ちを抑えても苛立ちが抑えきれない。  「馬鹿じゃねえの」  つい言ってはいけない言葉が口をついて出た。  「お前なあ、就職が上手く行かないからって俺に当たることないだろう。本当に俺の仕事はまだまだこの先分からないんだよ」  自分にその言葉が向けられたと勘違いした基之の兄は、いさめるように基之に話しかけたが、基之の目はただ勇魚を真っすぐに見ていた。『こっちを見ろよ、気が付いているはずだ』そう心の中で訴えながら。

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