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第2話

石で出来た花壇の淵に並んで腰を掛けた。 「入学式、なんでサボったの?」 「めんどくさかったんで。どうせ大したことやらないんでしょ」 「ふふ、まぁつまらないよね。僕も挨拶が終わったら抜けてきちゃった。」 「いいんすか、それ…」 イタズラっぽい笑みに、印象が少し変わった。 「僕は先生だからね、義務さえ果たせば大丈夫。でも君は一生に一度なんだし、出た方が良かったんじゃないの?」 「あんなん、時間の無駄…ってか、2時間もじっとしてるのムリ」 「うわぁ、将来困るよ〜それ。」 そうしてくすくすと笑った。 なんだかふわふわした男だ。 「あ、そういえば君、名前は?」 「三森晴樹っす。」 「三森ね、覚えられるように頑張るよ。」 人の名前覚えるの苦手なんだ、と言った。 教師のくせに大丈夫かよと思ったが、まだ上手く距離感が計れなかったので黙っていた。 「あんたは?」 「あんたって言わないの…。僕は、野崎 昌宏(のざき・まさひろ)。新任だけど、2年生の数学を教えることになってる。」 1年の担当じゃないのかと、正直がっかりした。 この人の授業なら全部出てやってもいいかもしれないと思ったのに。 初めて会った時から、そう思うくらいには惚れていた。 「ねぇねぇ、野崎先生って呼んでくれる?」 「は?」 「さん、に、いち、はいどうぞ!」 「…野崎、先生?」 訝しみながらも素直に名前を呼ぶと、先生は花がほころんだように笑った。 「…なんか、想像の何倍も嬉しいね。やっと、先生になったって実感が湧いてきた。」 「え…?」 「記念すべき僕の生徒第1号は三森だ。おめでと〜」 「…別に、嬉しくないっす」 嘘だ。 その笑顔に心臓がドキドキして、破裂しそうだった。 きっと顔も赤くなっていたに違いない。 「ん…もう式も終わる頃じゃない?退場の列に紛れて教室戻りなよ。」 「あー、そうっすね。じゃ、また…」 自然と口から出たのは、次を予期させる言葉だった。 「…また、何?もうサボっちゃダメだよ?」 先生にはサボタージュ予告に聞こえたらしい。 「いや…また会いに来ます。」 我ながら変なことを言ったと思う。 わざわざ会いに行くなんて言わなくても、この限られた敷地の中ではどうせ勝手に遭遇するのに。 「ふふ、じゃあ待ってるよ、僕の生徒1号くん。あぁ、授業が無い時はたいてい職員室に居ると思う。」 「…りょーかいっす」

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