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第3話

それから本当に、わざわざ会いに行くようになった。 先生今日も可愛いっすねぇなんて冗談半分、本気半分。俺と結婚しねぇ?と、ことあるごとに聞いた。男同士で結婚なんて出来るわけないから、ノリで軽く言えた。 甘いもの好きの先生のためにお菓子を持ってきて廊下で雑談をしたり、誕生日にちょっと良いボールペンをプレゼントしたりもした。 存外尽くすタイプの晴樹としては、自分の何もかもを差し出してしまいたいところだった。しかし相手は教師で、あまり高価なものを生徒から受け取ることは出来ないというのも分かっていた。 そのギリギリのラインを慎重に見極めている自分がたまに可笑しくて、なんだかんだ楽しかった。 友達には「あの先生のことカノジョばりに大切にしてんな」とからかわれて、うるせぇよと言い返しながらも全くその通りだと思った。 ふわふわとしたその先生は言わずもがな人気者で、晴樹が会いに行けば毎回会えるというわけではなかった。 そのぶん余計に職員室のドアを叩く回数が増えていった。 中学時代には職員室なんて寄り付きもしなかったのに、3年になる頃には晴樹が入口に立つだけで他の教師が野崎を呼んでくれるようになった。バーで「いつもの」を注文しているみたいで、ちょっと得意な気分だ。 3年間、晴樹が野崎の授業を受けることはなかった。晴樹が2年になると、野崎は1つ下の学年団に入ったからだ。 彼が顧問をしている部活に入ろうかとも考えたが、囲碁将棋部と数学研究部だったのでやめた。そんな部活、何が楽しいのか未だにさっぱり分からない。 ただ、数学は少しだけ面白いと思うようになった。 野崎の数学愛に感化されたのだ。 1年最初の定期テスト前にいつも通りの雑談をしにいくと、「ちゃんと勉強しなきゃ、あとで困るよ」なんて軽ーく怒られてしまった。 それならばと、次の日は問題集とおやつを抱えて会いに行き、野崎に数学を教えてもらうことにした。 「何でこんなのもわかんないの、ねぇ?」 普段陽だまりのような野崎は、数学のことになるとかなりサディスティックだった。 「授業サボったからっすかね」 「またか!もう…仕方ないなぁ、イチからやろうか。角の二等分線、ってのはこの線分を…」

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