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第5話
「先生はさぁ、彼女とかいねぇの?」
「残念ながらいないねぇ。」
全く残念ではない。まぁ、そうだろうと思ったから何の気なしに聞けたわけだ。
「あ、もしかして『彼女いない歴=年齢』の人?」
「それ、僕に対してかなり失礼だからね?高校時代には一人いたよ。」
「一人だけかよ、自慢になんねぇ」
「高校生のくせに彼女のひとりも出来ない三森には言われたくないね」
誰のせいだか、と心の中で反撃した。
だいたい、“出来ない”んじゃなく“作らない”だけだ。
…そのたった一人の彼女はどんな人だったのだろうか。
きっとかなりの変人で変態だ。
丸2年一緒に居ると、野崎が顔の割にモテない理由がよくわかる。
まず眼鏡。色白でスラリとした彼にはよく似合っていて、現に晴樹もこれを掛けたままの野崎を見て美しいと思ったのだが、やはりこの楕円はイマドキ女子にはダサく見えるのではないだろうか。
そして何より、変人だ。
三度の飯より数学が好きだと言ってはばからない彼が、生涯の職に数学教師を選んだ。これは数学と結婚したようなものだ。
そんなところも可愛くて仕方がない、と思っている自分がかなりヤバい奴だというのは自覚していた。
だから例の彼女とやらもヤバい奴に違いないと思ったのだ。
あるいは、別れてしまったのだからその逆かもしれない。
俺なら上手くやっていけるのに、と思ったが、男は恋愛対象に入る?とはさすがに聞けなかった。
結婚してよとは言えても、恋人になってよと言う勇気は無かった。
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