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第7話
卒業までの一週間、毎日先生に会いに行った。
足りない、足りない、もっと一緒にいたい。
落ち続けてきた穴は、急に重力加速度が大きくなったようだった。
卒業式当日、クラスメートとの記念撮影もそこそこに切り上げて野崎の姿を探した。
職員室に行けば会えるだろうと思って、まっすぐ向かっていると…
「あたし、野崎先生が好きです」
職員室前で、それは行われていた。
「えぇぇ、ほんとに?びっくり…。」
晴樹も同様に驚いていた。
一つ下ならともかく、同じ学年で自分以外に野崎を好いている生徒がいるとは思っていなかったのだ。
「気持ちは嬉しいけど…ごめんね。」
「…はい。すみません、でした。」
俯いて去っていく彼女。たぶん、泣いているのだろう。本気で野崎のことが好きだったのだ。
これから自分も、同じことを言われる。
分かっていても、黙っていることは出来なかった。
「先生。」
「あ、三森…卒業、おめでとう。」
「…先生、あのさ。」
緊張で、うまく声が出てこない。
「ん?」
「今度、どっか遊びに連れてってくれよ」
少し震えたが、それはきちんと音になって出ていった。
「…僕は先生だからね、そーゆーの軽々しく出来ないの。」
分かっていた。
分かってはいたが、それでも苦しい。
可愛いと思っていた口癖が、憎い。
「あー、やっぱダメ?…結婚は却下されるから、デートからならどうだって思ったのにー」
自分は上手く、笑えているだろうか。
「ってか、もう卒業したから先生とか関係ねぇじゃん」
「それよく言うけどねぇ〜」
野崎がいつものように笑う。
つまり、ちゃんと冗談に見せられたらしい。
「ま、いいわ。じゃあな、先生。」
式の間は一切出なかった涙が、今出そうだ。
くるりと野崎に背を向けて歩き出す。
「三森!」
「……なに。」
「…2年後。君が二十歳になったら…その時まで僕のこと覚えてたら、呑みに行こうか。」
元教え子と教師として、だろうか。
友達として、だろうか。
どちらでもいい、どうでもいい。
チャンスをくれるなら、モノにしてやる。
「…また会いに来ます。」
「ふふ、その敬語懐かしいね…じゃあ待ってるよ、僕の生徒1号くん。」
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