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第8話

「何が待ってるよ、だ!!あいつ!!」 約束の時間が経って母校を訪れた。 なんとなく、今日まで会いに来てはいけない気がして2年間我慢した。 家の近所というだけで選んだ誰でも入れるような私立大も結構楽しかったが、野崎を忘れた日なんて1日もなかった。 しかし2年ぶりに訪れた職員室で、野崎が去年異動していたことを知ったのだ。 自分の受け持ち生徒の卒業と同時に異動、それはよくある事だ。 しかし、連絡のひとつも寄越さないとはどういうことか。 そこまで考えて、互いの個人的な連絡先は知らないということに思い至った。 「野崎先生今どこっすか?」 「T高校だったかな。」 この辺で最も頭の良い学校だ。 他の学校に会いに行くにしても、アホ校よりなんとなくハードルが高い。 それでも諦めてたまるかと、自転車を飛ばしてド○キで黒スプレーを買った。大学に行ってから明るい茶色に染めた髪を隠すためだ。 賢い高校には入ったことがないから分からないが、とりあえず真面目に見えた方が良いだろう。 いったん家に帰って髪を黒に戻し、父親のスーツを着た。 今日は県内全ての高校が卒業式のはずだ。父兄に紛れてしまえばいい。 電車で20分、そこから徒歩10分程度で目的地に着いた。 怪しまれないように堂々と正門を抜けて校内に入る。 こんにちはー、といろんな生徒に挨拶されて気恥ずかしい。 誰かの兄か何かだと思われているのだろうが、さすが賢い学校はこんなところから母校とは違っている。 校内見取り図で職員室の位置を確認し、ついに前までやってきた。 ここに、2年会えなかったあの人が、いるはずだ。 そう思うと緊張した。 いざ、ドアを叩こうとすると。 「…晴樹?」 少し遠くから声がかけられた。 聞き慣れた、しかし懐かしい声だ。 「先、生…」 それしか、出てこなかった。 家の電話でもいいから異動の連絡くらいしろよとか、言いたいことはたくさんあったのに、何もかもが飛んでしまった。 「俺、二十歳になった。」 それが全てだ。 2年経ったって、忘れなかった。 だから会いに来たのだ。 「…ごめんね、今ちょっと忙しいんだ。」

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