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第7章 2
(ど、うして……俺は、……)
クガミは寝具に顔を埋めたまま絶望的な気持ちになっていた。痛くされて感じるなど、ただの変態ではないか。
そう思うのに、身体が昂ぶっていくのを止められない。
吐き出す息は熱く、荒くなり、全身が発熱しているかのように熱い。
心臓が早く脈打ち、傷口から、背中から拾うイザナの舌や指先、唇の感触が全て下肢へと響いていく。
(は、ぁッ……苦し……)
クガミは微かに腰を揺らした。それだけでも、硬く張り詰めた陽物が寝具と自分の身体の間で擦れ、じわりと先から蜜が滲むのが分かった。きっと袴の前の布地は恥知らずな蜜で濡れ色が変わってしまっているに違いない。
「ん……、だいぶ治ってきたな。だが、痕にはなるかもしれん……」
お前の肌は綺麗なのに、とイザナが口惜しげに呟く。たったそれだけの言葉だが、弱ったクガミの心には優しく沁みこんでいった。
今は。今だけは、この優しさに流れてしまっていいだろうか。
甘い誘惑に、クガミの心が傾ぐ。が、今一歩のところで踏み切れないのは、イザナに逃げてしまった時点で今までヨキを想ってきた自分の気持ちが偽りになってしまう気がしたからだ。
そうこう思い悩んでいる内に、イザナがすっとクガミから離れる気配がした。
「ッ!!」
クガミは咄嗟にイザナの着流しの裾を掴み、引き留めていた。
「どうかしたか?」
自分を見下ろす赤い瞳に、クガミの動悸が早くなる。
皮膚の下で血がざわついて、唇から勝手に熱い吐息が零れる。いかないでくれ、と言い掛けてクガミは止めた。
自分は何を言おうとしていたのだろうか?
引き留めたこともそうだが、イザナの事になると頭で考えるよりも先に身体が勝手に動いてしまう。ヨキの側にいた時は、常に自分がしっかりしていなければといった意識があったから、頭で考えてから行動に移すことが多かった気がする。
中々話し出さないクガミに、イザナが顔を覗き込んでくる。
「いや……その……」
もごもごと口の中で呟くも、結局本当のことなど言えるわけもない。クガミは何でもない、とイザナの着流しの裾を離した。
が、イザナはクガミを見下ろしたまま離れていこうとしない。何やら考え込むような顔つきでクガミの全身に視線を巡らせ――――ややあって、ああ、と何か分かりきったふうに頷いた。
「もしかして、感じたのか?」
イザナの一言に、クガミはぎくりと固まる。まさにその通りなのだが、クガミがそれを素直に肯定できるはずもない。
「ち、がう……ッ、傷を治してもらった礼を言おうと思った、だけだ……」
クガミは早口にもっともらしい理由を口にしたが、イザナにはそのクガミの様子が不自然に映ったようだ。訝しむような視線が、クガミの全身に突き刺さる。頭の天辺から爪先までイザナの視線が何度も行き来し――――そうして、納得がいったのかイザナが踵を返す。
クガミは内心ホッとしていた。
気付かれなかったこともそうだが、このまま流されずに済んでよかった、と安堵していると、不意にくるりとイザナが振り返った。
まだ何かあるのだろうか?
クガミがそう思っていると、徐にイザナがクガミの脇の下と腹の下に手を差し入れ、ごろりと転がすようにして引っくり返したのだ。
「う、わッ!?」
完全に油断していたクガミは、寝具の上に仰向けの状態で転がる。
「ああ、やっぱりな」
イザナが、したり顔で笑う。赤い瞳は、クガミの下肢、布地の突っ張った袴の前の部分をしっかりと捉えていた。
「こ、れは……その……」
クガミは後退りながら言い訳を考える。が、当然慌て困惑している状況でいい言い訳など思い浮かぶ訳がない。いっそのこと、開き直ることが出来ればいいのだろうが、それもまたクガミには無理な話だ。
答えに窮したままイザナの視線から逃げるように下を向いていると、イザナが唐突にクガミの陽物に触れた。
「ひ、ぁ……っ!!」
予期せぬ刺激にクガミの唇から上ずった声が零れる。
「こんな状態だと辛いだろう? 今、楽にしてやる」
確かに、この生殺しの状態は辛いのだが、イザナにやってもらわずとも自分で抜くなり、萎えるまで待つなりすればいいだけのことだ。
「……ん、ッ……そ、んな気遣い、要らん……ッ!!」
クガミは圧し掛かろうとするイザナの身体を突っぱねる。が、イザナの手がクガミが抵抗している間にも布ごと陽物を扱くせいで、身体に力が入らない。
しゅ、しゅっと緩急をつけ扱かれ身体が跳ねた隙にクガミは畳みの上に組み敷かれてしまった。イザナの肩越しに、うろの中を照らす光源らしき光の珠が幾つもふわりと宙を舞っている。幻想的な光景であるのにクガミはそれよりも情欲を滲ませ笑うイザナに釘付けになっていた。
「遠慮するな。人の厚意はありがたく受け取っておけ」
「厚意、じゃなくて……アンタの場合はッ……く、ぁ……下心……っん、ん……」
続けられる布越しのイザナの手淫に喘ぎながらそう言い返すと、ふっとイザナが真面目な顔つきになった。
「まあ、その通りだが……それでも、今は流されておけ。お前がそんな状態なのも、これからすることも……全部、俺のせいにしろ」
内側からクガミを崩す毒のような一言に、心揺さぶられる。
こんなふうに言うのはずるい。何もかもイザナのせいにして、流されたくなってしまう。
「……ッ」
クガミの身体から力が抜ける。それは、無言の了承だった。
イザナがクガミの袴の腰紐に手を掛け、手早く解く。そのままイザナが袴を引き下ろそうとするのを、クガミは腰を浮かせて助けた。下帯も取られ、あっという間に裸に剥かれてしまう。
(最低だな、俺は……)
クガミは内心で自嘲を溢す。
報われないとは分かっているが、ヨキへの恋慕はクガミの中では死んでいないままだ。そんな状態でイザナの優しさと肉欲に逃げ込む弱い自分に反吐が出そうだ。
「今は、俺にだけ集中していろ。全部、俺のせいなんだ。お前は何も考えなくていい」
クガミの内心を読んだかのようにイザナが言い、クガミの膝を割った。
すべてを曝け出すような無防備な格好に羞恥を覚えたクガミは、膝を閉じようとする。しかし、そうはさせまいと、イザナが両手でクガミの太股を掴み押し広げたまま固定すると、その隙に下肢に顔を埋めてしまった。柔らかい上下の唇がクガミの陽物を咥え、滑る舌が笠の張った部分を捏ねる。
「ッ、あぁ!!」
唐突にもたらされた強すぎる快楽に、クガミは背をしならせ喘ぐ。掴まれた筋肉質な太腿がぶるぶると震え、指先がもがくかのように畳を引っ掻いた。
(無理、だ……ッ、こんなの……)
味わったことのない強烈な刺激に、クガミは翻弄されていた。
蔦たちに嬲られた時は媚薬を盛られていたこともあって感じていたが、今は背に口付けをされただけで感じ、イザナの口淫によって昂ぶらされあられもない姿でよがっている。
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