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第2章ー3

 憧れの場所に行けるとあって浮かれているヨキと正反対に、クガミは嫌な予感がしていた。今のところ村に一人しかいない大事な巫子であるヨキをそう簡単にヒヨウが村の外、それも他国に出そうとするだろうか?  それに、ヨキが成人してすぐといったタイミングなのが更に疑わしい。 (……やはり、何か裏があるとしか……。けれど――)    ヒヨウの思惑に気付いた様子もなく、純粋に櫻ノ国に行けることを喜んでいるヨキに水を差すようなマネだけはしたくない。クガミはグッと押し黙ると、複雑な気持ちのまま二人の会話を聞いていた。 「急かす様で悪いんだが、今すぐにでもこちらを発ってほしい。なんせ、ここは宵ノ国でも北端にあるからね、櫻ノ国までは大分距離がある」 「直ぐに、っていわれても用意とかあるんだけど。それに、父様と母様にも言わなくちゃならないし」 「それは心配要らないよ。君のご両親にも伝えてあるし、用意もこちらで済ませておいたから」  ヒヨウが部屋の奥に向かって「おい!!」と声を張り上げる。と、大きな背負い鞄を持った男性の使用人が一人出てきた。彼はヨキとクガミの目の前に置くと、一言も発さず部屋の奥へと戻っていった。 「この中に、数日分の着替えや携帯食が入っている。今すぐにここを発てば、日暮れまでには隣村につくはずだ。さあ、行きなさい」  ヒヨウが有無を言わせぬままヨキの背を扉の方へと押し、急きたてる。その急かし方にヨキも漸く不信感を抱いたのか、怪訝そうな表情を浮かべていた。が、ヨキが何かを言う前に扉の向こうへと押し出されてしまう。  クガミは鞄を引っ掴むと、結局ヒヨウと一言も交わさぬまま部屋を出た。 「うーん、何か強引だなぁ……」  閉ざされてしまったヒヨウの家の扉の前で、ヨキが首を捻る。楽天的な彼にも、やはり先ほどのヒヨウの態度には引っかかりを覚えたらしい。 「……櫻ノ国に行くのか?」  控えめな声でクガミは尋ねた。本当は、行くのをやめろ、と言いたかったのだが、クガミはヨキがどれだけ村の外の世界に憧れて生きてきたのかを知っている。 「不安が無いわけじゃないけど……、僕は行くよ。それに、クガミもついて来てくれるんでしょ?」 「ああ」  クガミは力強く頷いた。元より、ヨキ一人を櫻ノ国に向かわせるつもりは無かった。  こうして、クガミとヨキは大きな背負い鞄一つを手に村の外へと出た。 「荷物、取りに行かなくて良かったの?」  先導するクガミの右手をヨキが引っ張る。クガミは正面を向き、細く続く獣道を見つめたまま「構わない」とだけ答えた。  元より、家には私物と呼べるものをあまり置いていない。それに、背負った鞄の重みから察するに、中には恐らく自分の着替えも入っている。必要なものといえばヨキと自身の身を守るための剣くらいなもので、それも常に腰に佩くようにしているから取りに行くような物は最初からなかった。 「まさか、こんなふうに村をでることになるなんて思ってなかったなぁ」  感慨深いといったヨキの声が、クガミの背後から聞えた。彼の顔は見えないが、クガミの手を握る力がぎゅっと強くなる。  彼の胸中を占めているのは遠ざかっていく生まれ故郷に対する郷愁か、はたまた未知の場所への好奇心と不安だろうか。クガミには推し量ることは出来なかったが、代わりにヨキの手をしっかりと握り返した。

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