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第3章ー6

「さて、罰を与えると言ったが……どうしたものだろうな。眷属がやられたからといって俺が罰を与えるのもな……」  イザナがそう言って拳を唇に当てて考え込む。そのまま話が流れてくれないものかと祈っていたのだが、そうは簡単に流れたりはしないようだ。  何かを思いついたのだろうイザナの瞳が楽しげに輝いた。 「ああ、眷属に任せればいいのか。くくッ、どうやらこれ達もやる気のようだぞ」  喉を鳴らして笑うイザナの背後から、ざっと数えただけでも数十本以上ある蔦がぬらりと現れた。地面を這い、クガミに向かって鎌首を擡げるその様子は威嚇する蛇のようにも見える。それらがずるずると這いながら、近付いてくる光景は気味の悪さすら感じた。  クガミは、ジリと後退する。が、足首に巻きついていたままの蔦がそうはさせまい、とでもいうように引っ張りクガミが後退するのを阻む。  こんなことならば、先に足に巻きついた蔦を切っておくべきだった。クガミはそう後悔したが、今となっては後の祭りだ。  しかし、だからといってこのままになっているつもりはない。幸い、クガミの手には抜き身のままの剣が握られている。クガミは足首にからむ蔦を切り解き逃げ出そうと考えていたのだが、不意にくらりと眩暈が襲った。剣を握っていた手にも力が入らず、地面に剣が重たい音を立てて落ちて行くのをクガミは揺れる視界の中見ていた。 (く、そ……ッ!!)  剣を手放したクガミに、今が好機とばかりに蔦が群がってきた。滑った蔦が手足に巻きつき、クガミの自由をあっという間に奪ってしまう。  青臭く、微かに甘い香りがクガミの鼻腔をつく。肌に触れれば湿った感触がするのだろう蔦が、クガミの腕を覆う宵ノ国の鉱石を加工して作られた籠手の上を這い回る。まるで、何かを探し回るような動きにクガミは一抹の不安を覚えた。 「ああ、これではやりにくいか。なら、俺が脱がしてやろう」  眷属である蔦の仕草から何か読み取ったのだろうイザナが、クガミの着る濃紺の馬乗り袴の紐にかかった。抵抗することも出来ないクガミの目の前で、するするとイザナの手によって袴の紐が解かれていってしまう。しかし、それだけでは終わらなかった。次にイザナの手が掴んだのはクガミの纏う薄茶色の小袖の腰紐だった。 「ッ――――やめてくれ!!」  クガミは拘束されたままの四肢を突っ張らせながら叫んだ。しかし、イザナの手はとまることがない。寧ろ、嫌がるクガミの表情を見て楽しそうに笑っている。その瞬間、何を言っても無駄なのだと理解したクガミは、ただ歯を食い縛り屈辱に耐えるしかなかった。 「ッ、…………く……」    イザナの手によって腰紐までもが解かれていく。中に着ていた長襦袢も解かれ、はら、と前が開きクガミの肌が露になった。 「滑らかで、綺麗な肌だな」  羽で擽るかのような触れ方で引き締まった腹部を撫でられ、クガミはピクリと身体を揺らす。そんな触れ方などされたこともないし、自分でもしたことがない。  そもそも、他人に手や頭、頬以外の場所を触れられるのはクガミにとっては初めてのことで、不快感で全身が総毛立つ。しかし、その不快感よりもクガミを困惑させたのは、不快感の中に時折混じる背筋がざわめくような妖しい感覚だった。 (な、んだ……これは……)  今まで感じたことのないような感覚に戸惑うクガミを他所にイザナの指がつっ、と腹部から胸へと移動する。鎖骨の窪みや、せり出た喉仏を擽り――そうしてまたゆっくりと下へと下りて行く。 「これも邪魔だな」  そういってイザナが指をかけたのは下帯だった。小袖や袴、襦袢はクガミの身体に引っかかっているだけで、既に肌を隠す役割を果たしていない。そんな状態で下帯を取られてしまうと、裸となんら変わらない格好になってしまうではないか。 「よせ!! やめろッ!!」  クガミは四肢に力を込めながらなりふり構わず叫ぶ。それがイザナを喜ばせることになると分かっていても、抵抗しないわけにはいかなかった。  が、無情にもイザナの指はクガミの叫びを無視して下帯を取り去ってしまった。ぱさり、と音を立てて下肢を覆っていた白い布が地面へと落ちる。  クガミは布が取り去られたそこにイザナの視線が突き刺さるのを感じた。縮こまった陽物を人前に晒すなど、ただの辱めでしかない。クガミは血の味がするほどきつく唇を噛み締めた。  何故自分がこんな目にあわなければならないのだ?   神域に足を踏み入れたことや眷族を屠ったことは確かにいけないことだったが、ここまで辱められる理由にはならないはずだ。 「ッ、く……神だからといって、こんなこと許されるはずがない」  敵愾心を隠しもせず、イザナを睨みつける。  が、イザナは向けられる鋭い視線にも動じず、まるでクガミが歯向かってくるのが嬉しくてしかたがないといったふうに笑うだけだ。    

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