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第16話 五月雨に惑う(2)

 昼休みになり、ヤスと二人、購買で買ってきたパンの入ったビニール袋を片手に、俺たちは教室に戻ろうとしていた。ヤスは焼きそばパン、俺はコロッケパン。  二人とも家から弁当持参してはいるものの、成長期の俺たちにはそれだけじゃ足りない。去年までは、昼休みになると一宮遥先輩と、朝倉遼子先輩が俺たちの教室まで来ては、『これも食べて』と、お菓子やら果物やらを恵んでくれてたけれど、卒業してしまった今年からはそれももうない。  俺たちが階段をくだらない話をしながら上っていると、ふと視線を感じて顔を見上げた。そこには見覚えのない女の子たちが教科書を抱えて立っていた。教科書のタイトルから、たぶん、一年生の子たちだろう。その彼女たちが、俺たちのほうをチラチラ見ながら脇を通り過ぎていく。それも、クスクスと笑いながら。 「なんだ、あれ」  困惑しながら呟く俺。階段を上り切ったところで、笑う声を抑えながら降りていく彼女たちの背中を見送る。俺の隣に立っているヤスのほうは、彼女たちに比べたら、もっといやらしいというか、だらしない顔でニヤついている。 「ヤス、キモイ」 「いや、さすが要くん、おもてになりますな」 「はぁ?何言ってるんだよ」  呆れたように言い返したが、ヤスのほうはゲスい感じに、イシシ、と笑い返してくる。なんかムカついたのでヤスの脇腹をどついてやった。 「ぐほっ、ちょ、要、マジになんなよ」 「ほれ、行くぞ。佐合さん、待ってるぞ」 「待てよ~」  教室に戻ると、案の定、うちのクラスの女子と楽しそうに話している佐合さんの姿があった。 「あ、待たせた?」 「ううん、ちょっと前に来たとこ……あ、またね」  話をしてた女子と笑顔で別れると、俺たちの席の方にやってくる佐合さん。彼女の手には女の子らしい小さなお弁当と、もう一つ小さな紙袋があった。 「茜、それ何?」  ヤスはすぐに佐合さんの隣に立って、彼女の紙袋をのぞきこむ。それがあまりに自然すぎて、俺の方もニヤつくしかない。 「んと、いちご。親戚からたくさん送ってきたから」  紙袋の中には保冷用のバックが入っていて、そこから現れたのは大き目なタッパーの中にギュウギュウに入っているいちごだった。 「おお、美味そう!」  大喜びなのはヤス。タッパーの蓋を開けると、目をキラキラさせて、さっそく一つだけつまんで口に放り込む。 「んんん!」  嬉しそうなヤスの様子を見つめる佐合さんの笑顔に、俺は母性を感じてしまった。 「要くんも食べてね」  そんな彼女を見ていたのを感じ取ったのか、俺の方にも微笑む佐合さん。 「ああ。ありがとう。ほれ、ヤス、いちごばっか食ってないで、弁当出せよ」 「んん、ほーはっは(そうだった)」  いちごをくわえたまま、ヤスはバッグからでかい弁当箱を取り出した。

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