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第17話 五月雨に惑う(3)
高校三年になっても、あまり身長が伸びなかったわりに、食う量は半端ないヤス。そのエネルギーがどこで消費されてるのかは、大いに謎だ。
俺の方も、前に柊翔が使ってた弁当箱に、おばさんがいろんなおかずを詰め込んでくれている。さすが柊翔が使ってただけに、ヤスのほどではないものの、やはりデカい。
おばさんは、せっかく柊翔が卒業したから、弁当作りから解放されたはずなのに、俺が同居することになって、弁当作りからの解放は先延ばしにされてしまった。朝の忙しい時間に、申し訳ないなぁ、と思って、一度、購買でパンを買うから、と断ろうとした。すると、おばさんから、「私の楽しみを奪わないでぇぇぇ」と縋りつかれてしまった。
「……相変わらず、鴻上先輩のお母さんって、すごいよね」
俺の弁当を見て、そう呟くのは佐合さん。料理研究部に入ってるだけに、目をキラキラさせながら興味津々に除きこむ。なぜなら……まるで、女の子が好きそうなキャラ弁だから。クマだとか犬だとか、アニメのキャラクターらしきものがモリモリ。こんな弁当、柊翔も持ってきてたのかと思って柊翔に連絡したら、そうではないらしく、俺になってから始まったらしい。
おばさん曰く、「柊翔だったら怒って持って行ってくれないから」だそうだ。さすがにお世話になっている手前、俺は怒るに怒れず、柊翔からも「付き合ってやって」と頼まれる始末。そもそも朝からここまでのものを用意してもらっている俺が、怒るわけにも、断るわけにもいかないだろう。
「でも、普通におかずも美味しいもんね」
そう言いながら、佐合さんは羨ましいと言って自分のお弁当に入れていた卵焼きを口に入れる。料理好きの佐合さんなら、自分でお弁当を作っているのかと思いきや、母親が作ってくれてるらしい。高校までの親孝行だそうだ。ヤスは佐合さん手作りのお弁当を作って欲しかったらしいが、佐合さんの話を聞いて諦めたらしい。
「そういえば、さっきだけど」
佐合さんは急に思い出したかのように、俺の方に目を向ける。
「一年の女の子が、要くんを探しに教室まで来てたよ」
「一年?」
そう言われると、さっきの女の子たちの集団が頭に浮かぶ。
「もしかしてさっきの集団か?」
ヤスが問いかけるように俺の方に顔を向ける。
「集団?なんか一人で来てたけど。あの例の女の子」
「ああ……校門で待ってる子か」
佐合さんとヤスが顔をあわせて、なんとも言えない顔つきになった。うん、俺も同じような顔になっていると思う。
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