いつも通りの教室と変わりない。俺にはそう見えたのだが。 「ん？」 　廊下への出入り口に女子の集団が固まってるのに気が付いた。それは、いつものことで、きっとくだらないおしゃべりをしてるだけと思ってたのだが。なぜか、全員、教室の中……それも俺たちの方をみていた模様。中の一人と視線が合うと「きゃぁっ」と黄色い声があがる。それとは反対側の出入り口の方から視線を感じて、そっちに向ければ、また違う女子の集団が覗き込んでいる。 「……うちのクラス、こんなに女子、多かったっけ？」 「そうじゃねぇだろ」 　ヤスの呆れた声と同時に、佐合さんのため息が聞こえる。 「要くん、あそこにいるのは、要くん目当ての一、二年生」 「はぁ？」 　俺は改めて出入り口へ目を向けると、今度はあからさまに手を振ってくる女子たち。なんだそりゃ。俺はアイドルか？顔を強張らせて、すぐに顔を背けた。それだけなのに、廊下のほうでは女子たちの甲高い声が聞こえてくる。なんか、すげぇ、怖いんだけど。 「……朝倉先輩たちがいた間は、目立った行動とかなかったけどね。三年の子たちは、まだ先輩たちの陰に遠慮があるけど、一、二年生は気にしてないっていうか」 　苦笑いしながら佐合さんは、廊下の方へと目を向ける。 「だから、言っただろ。お前、モテるなって」 「……さっきのアレもか」 　俺はうんざりしながら、空になった弁当の蓋を閉じる。やっぱりおばさんの弁当は美味かった。思わず、合掌。 「アレって？」 「購買から戻るところで、一年女子が要のこと見て嬉しそうに笑ってたんだよ」 「ああ、なるほど」 　俺はコロッケパンの袋を破ると、苛立ちを込めてかぶりつく。そりゃ、女の子は可愛いとは思う。しかし、なんというか、ああいう見られ方は慣れないし、正直、面倒だな、と思う。 「まぁ、鴻上先輩には、知られないほうがいいかもね。あの人も、色々、面倒だから」 「茜、厳しいね」 「うん、要くん泣かす人は、私が許さないから」 　にっこりと笑う佐合さんに、ヤスも苦笑い。もう、愛妻が可愛くて仕方ありません、って顔してるんだけど。まったく、二人ともいい関係を築いてるみたいで、俺もほのぼのしてしまう。 「ああ、それとは別に、あの一人で来る一年生、あの子は気を付けたほうがいいかも」 「ん？なんで」 「……うーん、なんか、変に勘違いというか……ポジティブというか……鴻上先輩とは違った、面倒くささがあるような気がしてね」 　たかだか一年生の女子に、とは思うものの、佐合さんが心配そうな顔をしているのを見ると、わかった、としか言えない。 「まぁ、何もないといいんだけど」 　心配そうな彼女のその言葉に、俺も苦笑いしながら頷くしかなかった。