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第20話 五月雨に惑う(6)
授業も終わり、俺とヤス、佐合さんの三人で帰ろうと下駄箱のところまで来ていた。自分の靴を出そうと思った時、雨がパラパラと降りだす音が聞こえてきた。
「えぇ、雨~?」
ヤスが眉間に皺を寄せながら、玄関のドアのところに立って空を見上げる。勢いのある雨足とともに、どんよりとした黒くて重い雲。そうすぐには止みそうもないな、というのはすぐにわかった。
「私、折り畳みの傘、持ってるよ」
佐合さんはバッグの中から可愛らしい猫の柄の折り畳みの傘を取り出した。しかし、さすがに三人入れるようなサイズではない。二人でだって、この雨の勢いじゃ、肩は確実に濡れそうだ。
「俺、教室のロッカーに置き傘してるから、それ、取ってくるわ」
毎日持ち歩くのが面倒だったのもあって、折り畳み傘を置きっぱなしにしていた。それも小さいサイズなので、俺一人でも、若干濡れそうなのだけれど。
「先に、帰っててもいいよ」
「いや、待ってるよ」
「うん、ここにいる」
二人はいつも俺のことを気にかけてくれる。まぁ、一年の頃のあの出来事があったからかもしれないが、今では、そんなトラブルもない。もう子供ってわけでもないんだけどな、と思いながら、過保護な同い年の二人を見て苦笑いを浮かべる。
三階にある教室に戻り、ロッカーから傘を取り出すと、急いでヤスたちの所へ戻ろうと階段を駆け下りる。二階に着いて、一階へと階段に身体を向けた時、教室の方で大きくガタガタンッという音とともに、女の子の「きゃぁっ!」という叫び声が聞こえた。
思いのほか大きな声に、誰かが怪我をしたんじゃないか、と思った俺は、慌てて声のした教室に向かった。ドアを開けてみると、後ろの席のほうが乱れた状態で、一人の三つ編みをした女子が顔を俯かせて床に倒れていた。
「えと……大丈夫か?」
当然、声をかけてしまった俺なんだけど、よく見れば、その彼女を囲むように何人かの女子が驚いた顔で立って俺の方を見ている。そして、倒れてた女子も顔をあげると、俺の顔を見てあんぐりと口を開けた。
その倒れてた彼女は……あの校門で待ってる一年女子だった。
「え?」
俺は驚いた声を出すと同時に、双方に目を向けた。
これって、もしかして……女子の集団虐め、みたいな? もしかして、俺って、厄介な立場に立ってたりしないか?
思わず、佐合さんの言ってた言葉が、頭をよぎる。今更ながらに、あの言葉が、まさにフラグを立ててしまっていたような気がする。
「し、獅子倉先輩っ」
大きな声でそう呼んだのは、倒れていた一年女子。急に立ち上がると、思い切り俺にタックルしてきて、思わず「うげっ」と声が漏れてしまった。
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