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第21話 五月雨に惑う(7)

 けして、俺も貧弱なつもりはなかったけど、ぽっちゃりの彼女のタックルは、思った以上に強烈に俺の鳩尾に入った。 「あ、土屋っ」 「何、抱き着いてんのよ」  集団女子の何人かが、土屋と呼ばれた彼女に文句を言うが、彼女の方は完全無視。 「先輩、先輩、あの人たち、私を虐めるんですっ」  ぎゅうぎゅうと抱き着かれて、俺の方が息苦しいくらい。正直、離れて欲しい。しかし、一応、女の子だから、邪険に扱うのも、と躊躇してしまう。 「ち、ちょっと、苦しいんだけどっ」  彼女の肩を、軽くタップした。しかし、それすらも無視してグイグイくる上に、なんか「ハァハァ」と鼻息が荒いんだが。 「獅子倉先輩が困ってるでしょっ」 「いいかげんにしなよ」 「嫌っ、離さないっ」 「土屋っ!」  最終的に、女子たちに助けられてる俺。制服がよれよれになるし、まるで俺の体力とか精神力とか、ガシガシ削られてる気がする。なんか、すげぇ、疲れた。  その土屋さんのほうは、顔を真っ赤にしながらも、どこか満足そうな顔して俺を見つめてきて、その視線に俺は背中に悪寒が走った。集団女子に腕を掴まれてなかったら、また、タックルしてきそうで怖すぎる。 「先輩、大丈夫ですか」  集団女子の中の一人が、心配そうに声をかけてきた。二年の名札をつけている様子から、たぶん、このクラスの子なんだろう。  元々は彼女たちの間での問題だったはずなのに、完全に俺まで巻き込まれてる。俺は、制服を整えながら、苦い顔をするしかない。 「と、とりあえず、俺の方は大丈夫だけど。その、ケンカとかやめなよ。女の子同士でさ」 「……すみません」  俺の言葉に素直に反応したのは、その声をかけてきた女子。集団の中でもリーダーっぽいのだろう。彼女の後ろにそろった女子たちも、申し訳なさそうな顔をしている。その中にいる土屋さんだけが、なぜか得意気な顔になってるのが、俺の方が無性に腹立たしく感じた。 「それと、土屋さんだっけ?」 「はいっ!」  目を輝かせて返事をする。俺は少し呆れたように、彼女に注意する。 「もう少し、加減ってものを学ぼうか。力にしろ人との付き合い方にしても」 「はいっ」  俺の言ってること、ちゃんと理解してるのか不安になるような、キラキラした眼差し。  ああ、駄目だな、と俺の方は、すぐに諦めの境地に達してしまった。この手のタイプは、何を言っても無駄だ、と、本能的に察してしまう。馬の耳に念仏ってやつだ。  大きく溜息をつくと、「じゃ、俺、人を待たせてるから」と声をかけて、教室を出ようとした。 「あ、先輩、私も一緒に」  そう言って追いかけてきそうになった土屋さんを、集団女子たちが許すわけもなく、彼女の腕は、しっかりと掴まれてる。あのパワフルな彼女を抑え込むあたり、掴んでる女子も、スゴイ。 「獅子倉先輩、お気をつけて」 「さよなら」 「う、うん。じゃぁ。お先に」  出入り口で手を軽く上げて挨拶をする俺を、にこやかに見送る集団女子たち。そんな彼女たちとは反対に、土屋さんは自分を掴んでる女子だけでなく、周囲にいる女子たちを睨みつけている。  その視線をものともせずに、俺に笑みを浮かべている女子たちの姿に、やっぱ、女子って怖い、と思ってしまった。

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